先月18日に、暴徒化した従業員が破壊放火したインド、ハリヤナ州のマネサール工場の事件は、読者の記憶にもあると思います。この事件で1名が死亡、日本人を含む100名以上が負傷しました。
事件から1ヶ月強の8月21日、工場が300名の1直体制にて限定的に再開されました。マネサール工場は元々3300名の従業員がおり、約1/10規模での生産再開です。
現地報道によると、州政府が500名の警察官を動員し、敷地内に200名、工場周辺に300名を配置。スズキも100名の民間特殊警備員を配置しているとのこと。(日経の報道では内部に警察官100名となっていますが、これは誤りでしょう)
雇用関係では、まず暴動に関与していたとされる500名の正規労働者の雇用を終了し、さらに今後、同様に暴動や放火に関わったとする500名の労働者を削減する計画、と報道されています。
そして9月2日より新たな正規労働者の新規募集を開始する様です。
その後の報道で、工場再稼働初日には300名ではなく、実際は84名しか出勤しなかったとも伝わっています。これは、まず最初に削減された500名からの報復を、残留した従業員が恐れたのではないかと推測されています。
このあたりは日本では報道されていないと思いますが、いかがでしょう?
この事件を受けて、NHKは、正規と有期労働者の賃金格差への不満が爆発した…とのストーリー、日経は左派勢力の拡大が背景にあり、とりわけマオイストの関与を臭わす報道でした。
どちらを見ても、インドの現地背景を理解していない日本人が受け取る報道としては不十分だと感じます。言い換えれば、誤解を招く(敢えてそうしている?)報道とも言えます。
事件直後に99人が逮捕され、主犯格とおぼしき40名以上が逃走。一部は他州へ逃れようとしたところを逮捕され、現時点で150名余りが逮捕拘束されています。
現地報道では、左翼系の労働組合が関与しているとする報道が支配的です。
過激とされるマオイストの関与は今のところ否定されていますが、捜査の本格的進捗はこれからであるので、真相はまだ不明です。
この事件の背景として、西ベンガル州など、インド東部の州では伝統的に共産党系など左派の勢力が強かったですが、最近の選挙で左派が政権を失ったため、労組を通じて影響力を伝播させるよう方針を強めたと言われています。
マオイストはこの事件への関与は否定しましたが、労組を通じた勢力拡大についてはハッキリと肯定しています。
さて、インドの労使交渉は時には激しく行われます。伝統的に労働者の権利が強いインドではごく普通のことです。
報道されているように、有期労働者(契約社員)が増えているのは昨今の傾向です。一つは能力を見極めてから正社員へ登用したいと言うこと、第2に正社員を解雇するのは非常に難しく、コストと時間がかかるため、契約社員を選択する企業が多いということが背景にあります。
日本の報道を見ていると、いかにも「条件を悪くして労働者を追い込んだための反動」とする記事も多く、あまりに現地の状況を知らずに日本的思考で記事にしているのは残念です。
大企業、とくにスズキのような外資系有力企業へ職を求めるのは、一般的労働者では並大抵のことではありません。インドでは労働者の層が日本と比べて圧倒的に厚く、競争も激しいのです。彼らも、まず契約社員で実力を示し、正社員へ登用されるのを王道としていますし、その道が自身の価値を上げる近道とも理解しています。したがって、日本での契約社員とは質も内容も違うと考えるべきでしょう。決して労働者に極端に不利な条件を強いているのはないのです。そして、もしあまりにひどい条件であれば、別の外資系へ応募すればいいことですから。
私見ですが、今回の事件は労働条件の対立などが根底にあった上での衝突と言うよりは、特定の勢力(左翼系)が存在感を示すべくごり押しし、手段として暴力を選択したと考えています。
以前も書いたと思いますが、スズキはインドで最も尊敬される企業の一つです。それは業績だけではなく、日本的労使関係をインドに持ち込み、成功、定着させた実績も評価されてのことです。工員と経営層が同じ場所で食事をとるというのは、それまでのインド企業では考えられなかったこと。それを鈴木修会長が率先して行い、ぐっと親密な関係を築いたと言います。会長も今回の事件に関して「信じられない」との心情を発表しています。
約40年にわたり培って来たその労使関係が、突然変質するとはどうにも考えづらく、外部勢力の侵入と浸食によるものではないかと考えるわけです。
しかし、マオイストが表明しているように、極左系労働組合の勢力拡大の意欲は強く、彼らが関与していくことによって従来の労使交渉や労使関係などが変質していくことが充分に考えられます。
今後の真相の解明と、スズキの対応とその評価によって、進出日本企業にとって新たな経営問題へのケーススタディになろうかと思います。
日本からの投資は変わらず止まりません。いたずらに不安を感じる必要はありませんが、しっかりと注視していきたいと考えています。
ぢんぢ部長(松田憲明)
■皆さんからのインドに関するご質問などを受け付けます。
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■プロフィール:億の近道編集長。最近はインドと日本のビジネスブリッジを
中心に活動している。インド国内に強力な人脈を持ち、インド進出のバック
アップを行う。また、インド株式投資の情報を現在鋭意収集中。
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事件から1ヶ月強の8月21日、工場が300名の1直体制にて限定的に再開されました。マネサール工場は元々3300名の従業員がおり、約1/10規模での生産再開です。
現地報道によると、州政府が500名の警察官を動員し、敷地内に200名、工場周辺に300名を配置。スズキも100名の民間特殊警備員を配置しているとのこと。(日経の報道では内部に警察官100名となっていますが、これは誤りでしょう)
雇用関係では、まず暴動に関与していたとされる500名の正規労働者の雇用を終了し、さらに今後、同様に暴動や放火に関わったとする500名の労働者を削減する計画、と報道されています。
そして9月2日より新たな正規労働者の新規募集を開始する様です。
その後の報道で、工場再稼働初日には300名ではなく、実際は84名しか出勤しなかったとも伝わっています。これは、まず最初に削減された500名からの報復を、残留した従業員が恐れたのではないかと推測されています。
このあたりは日本では報道されていないと思いますが、いかがでしょう?
この事件を受けて、NHKは、正規と有期労働者の賃金格差への不満が爆発した…とのストーリー、日経は左派勢力の拡大が背景にあり、とりわけマオイストの関与を臭わす報道でした。
どちらを見ても、インドの現地背景を理解していない日本人が受け取る報道としては不十分だと感じます。言い換えれば、誤解を招く(敢えてそうしている?)報道とも言えます。
事件直後に99人が逮捕され、主犯格とおぼしき40名以上が逃走。一部は他州へ逃れようとしたところを逮捕され、現時点で150名余りが逮捕拘束されています。
現地報道では、左翼系の労働組合が関与しているとする報道が支配的です。
過激とされるマオイストの関与は今のところ否定されていますが、捜査の本格的進捗はこれからであるので、真相はまだ不明です。
この事件の背景として、西ベンガル州など、インド東部の州では伝統的に共産党系など左派の勢力が強かったですが、最近の選挙で左派が政権を失ったため、労組を通じて影響力を伝播させるよう方針を強めたと言われています。
マオイストはこの事件への関与は否定しましたが、労組を通じた勢力拡大についてはハッキリと肯定しています。
さて、インドの労使交渉は時には激しく行われます。伝統的に労働者の権利が強いインドではごく普通のことです。
報道されているように、有期労働者(契約社員)が増えているのは昨今の傾向です。一つは能力を見極めてから正社員へ登用したいと言うこと、第2に正社員を解雇するのは非常に難しく、コストと時間がかかるため、契約社員を選択する企業が多いということが背景にあります。
日本の報道を見ていると、いかにも「条件を悪くして労働者を追い込んだための反動」とする記事も多く、あまりに現地の状況を知らずに日本的思考で記事にしているのは残念です。
大企業、とくにスズキのような外資系有力企業へ職を求めるのは、一般的労働者では並大抵のことではありません。インドでは労働者の層が日本と比べて圧倒的に厚く、競争も激しいのです。彼らも、まず契約社員で実力を示し、正社員へ登用されるのを王道としていますし、その道が自身の価値を上げる近道とも理解しています。したがって、日本での契約社員とは質も内容も違うと考えるべきでしょう。決して労働者に極端に不利な条件を強いているのはないのです。そして、もしあまりにひどい条件であれば、別の外資系へ応募すればいいことですから。
私見ですが、今回の事件は労働条件の対立などが根底にあった上での衝突と言うよりは、特定の勢力(左翼系)が存在感を示すべくごり押しし、手段として暴力を選択したと考えています。
以前も書いたと思いますが、スズキはインドで最も尊敬される企業の一つです。それは業績だけではなく、日本的労使関係をインドに持ち込み、成功、定着させた実績も評価されてのことです。工員と経営層が同じ場所で食事をとるというのは、それまでのインド企業では考えられなかったこと。それを鈴木修会長が率先して行い、ぐっと親密な関係を築いたと言います。会長も今回の事件に関して「信じられない」との心情を発表しています。
約40年にわたり培って来たその労使関係が、突然変質するとはどうにも考えづらく、外部勢力の侵入と浸食によるものではないかと考えるわけです。
しかし、マオイストが表明しているように、極左系労働組合の勢力拡大の意欲は強く、彼らが関与していくことによって従来の労使交渉や労使関係などが変質していくことが充分に考えられます。
今後の真相の解明と、スズキの対応とその評価によって、進出日本企業にとって新たな経営問題へのケーススタディになろうかと思います。
日本からの投資は変わらず止まりません。いたずらに不安を感じる必要はありませんが、しっかりと注視していきたいと考えています。
ぢんぢ部長(松田憲明)
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■プロフィール:億の近道編集長。最近はインドと日本のビジネスブリッジを
中心に活動している。インド国内に強力な人脈を持ち、インド進出のバック
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