■29年ぶりの安値に低迷している日本株
日本株式は長期低迷している。
代表的な株式指数であるTOPIXは、今年6月に29年ぶりの安値を記録した。
TOPIXのPER11倍、PBR0.9倍という株価水準である。
PERの逆数である益利回りは9%に達し、長期の国債との利回りの差であるイールドスプレッドは8%である。
ROEは8%程度である。指標面からは割高感はない。
株がこのような安値で放置されている理由は明白だ。
日本を取り巻く環境は厳しい。
外需は、円高定着による企業の収益への影響が懸念される。
また、世界的な競争激化で日本企業のシェアは低下傾向にある。
内需は、人口が減少していくため、大きな成長が見込まれない。
だが、悪いことばかりではない。
今回は、それを伝えるのがこのコラムの目的である。
悪いことにも、よい側面は必ずあり、よい側面に悪いことが隠されているものだ。
日本社会や日本企業は、世界の投資家から評価されうる下地がある。
これまでは、世界から評価されるためには、日本が変わる必要があるという論調が多かった。
だが、わたしはそうは思わない。
むしろ、世界は、これから、日本を見習うべきではないか、と考えている。
■金融システムが安定している日本
日本はバブル崩壊を90年に経験し、土地の価格は過去30年間、下がり続けてきた。
だが、土地は下げ止まった。
この意味は大きい。
世界を見れば、サブプライムローン問題以後、米国の土地価格は下がり続けている。
また、ユーロ危機後、欧州各国、特に南欧の土地価格が下がり始めている。
その対極にあるのが日本だ。
日本の土地の価格は安定している。
日本はすでにバブル処理が終わり、邦銀の不良債権問題は片付いている。
日本の金融システムは安定している。
金融機関の安定性は、経済の安定性の基礎である。
欧米の金融機関の行き過ぎたリスクテイクに比べれば、
日本の金融の健全性は、たまたまなのか。
そうではないのではないか。
日本の金融機関も、欧米を見習い、インベストメントバンクを志向した。
日本の金融機関の経営者の報酬は、欧米に比べてずっと控えめなものに過ぎない。
貸出先がない状況で、無理なリスクを取らず、無理な貸し出しをせず、無理な経営はしていない。
銀行の堅実な経営が経済の安定に寄与している、といえば、言い過ぎだろうか。
■物価が安定し、環境豊かな日本
インフレに悩むアジア諸国と違い、日本では物価が安定している。
交通渋滞も少なく、犯罪が少なく、気候がよく、自然豊かで水や空気が綺麗で環境がよい日本は、世界的に住みやすい国だ。
ストライキや暴動もなく、米国のようにデモが公園を占拠したり、英国のように若者が暴徒化することもない。
中国やインドのように工場で従業員が暴徒化することもない。
■規制による節度を保つ日本
米国や欧州では、80年代以降、金融業界が経済をけん引する時代が続いた。
欧米経済をけん引したのが、サブプライムに代表される証券化ローンだ。
邦銀は、あくまでデリバティブや証券化ローンには慎重だった。
それどころか、日本の金融当局は規制を強化している。
その一例が、金利の上限規制だ。
米国では、ローン金利が数年後に極端に跳ね上がるような商品が蔓延した。
日本では、5−6年前から年率18%を超える金利は禁止されている。
過去、18%を超えた金利を払った消費者には、その金利過払い額が過去にさかのぼって還付された。
こうしたことは、欧米では考えられないかもしれない。
日本の消費者金融業界は、規制強化により、壊滅的な打撃を被った。
一方で、消費者は、年収以上の借り入れをしたり、借金による過剰な消費を継続することができなくなった。
過剰な消費を抑える、ということは、経済にはマイナスになる。
たとえ、経済にはマイナスであっても、多重債務者を生みださない社会を日本は志向した。
これは、欧米の金融行政とは全く逆の動きであった。
■CEOの暴走を許さない日本
欧米の経済を活性化させたのは、減税政策だ。
高額所得者の減税により、リスクをとったものが勝ちという風潮が欧米で広がった。
欧米企業の経営者は、無理なリスクをとるようになった。
一方、日本では、累進課税により、高額所得者には50%程度の課税がなされる。
また、所得の再分配を狙って、高率の相続税が課せられている。
高額所得者にとって、日本は住みにくい国かもしれないが、
米国のように勝者がすべてを独占する不平等なシステムは日本にはない。
そして、日本の経営者の報酬は従業員の年収とたいして変わらない。
欧米の経営者は何十億円も収入を得る。
日本でそんなことをしたら、社会問題になるだろう。
また、日本の企業は、欧米企業のように株主利益だけを優先させない。
地域社会や従業員や株主がバランスをとって、
そのバランスの上にだけ、株主の利益が存在する、という哲学である。
日本の経営者は、どちらかといえば、従業員の代表のようなものだ。
従業員を代表しているから、従業員と同程度の報酬で経営をする。
日本企業は、身勝手なリストラは少ない。
不採算の部門があっても、企業は、人を切り捨てることはしない。
成長事業へ人員を移動することで、企業は人を活かそうとする。
そのため、日本では失業率が欧米よりも低い。
日本の社会は、不平等を、是とはしない。
このような日本企業の立ち位置、
つまり、
雇用重視の経営、
決して高額とはいえない経営者の報酬は、
日本の社会の価値観を反映している。
金融は主役ではなく、黒子である。実業が主役である、という価値観。
特に、モノつくりに対する高い評価は、日本人特有の価値観かもしれない。
従業員が会社の主役だという価値観。
また、失業率の低い社会、
つまり、累進課税や高い相続税により、富の再分配機能が働いている社会、機会平等を保とうとする社会は、
日本の高い倫理観によって保たれている。
(次回へつづく)
山本 潤
日本株ファンドマネージャ
(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。万が一、事実と異なる内容により、読者の皆様が損失を被っても筆者および発行者は一切の責任を負いません。)
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日本株式は長期低迷している。
代表的な株式指数であるTOPIXは、今年6月に29年ぶりの安値を記録した。
TOPIXのPER11倍、PBR0.9倍という株価水準である。
PERの逆数である益利回りは9%に達し、長期の国債との利回りの差であるイールドスプレッドは8%である。
ROEは8%程度である。指標面からは割高感はない。
株がこのような安値で放置されている理由は明白だ。
日本を取り巻く環境は厳しい。
外需は、円高定着による企業の収益への影響が懸念される。
また、世界的な競争激化で日本企業のシェアは低下傾向にある。
内需は、人口が減少していくため、大きな成長が見込まれない。
だが、悪いことばかりではない。
今回は、それを伝えるのがこのコラムの目的である。
悪いことにも、よい側面は必ずあり、よい側面に悪いことが隠されているものだ。
日本社会や日本企業は、世界の投資家から評価されうる下地がある。
これまでは、世界から評価されるためには、日本が変わる必要があるという論調が多かった。
だが、わたしはそうは思わない。
むしろ、世界は、これから、日本を見習うべきではないか、と考えている。
■金融システムが安定している日本
日本はバブル崩壊を90年に経験し、土地の価格は過去30年間、下がり続けてきた。
だが、土地は下げ止まった。
この意味は大きい。
世界を見れば、サブプライムローン問題以後、米国の土地価格は下がり続けている。
また、ユーロ危機後、欧州各国、特に南欧の土地価格が下がり始めている。
その対極にあるのが日本だ。
日本の土地の価格は安定している。
日本はすでにバブル処理が終わり、邦銀の不良債権問題は片付いている。
日本の金融システムは安定している。
金融機関の安定性は、経済の安定性の基礎である。
欧米の金融機関の行き過ぎたリスクテイクに比べれば、
日本の金融の健全性は、たまたまなのか。
そうではないのではないか。
日本の金融機関も、欧米を見習い、インベストメントバンクを志向した。
日本の金融機関の経営者の報酬は、欧米に比べてずっと控えめなものに過ぎない。
貸出先がない状況で、無理なリスクを取らず、無理な貸し出しをせず、無理な経営はしていない。
銀行の堅実な経営が経済の安定に寄与している、といえば、言い過ぎだろうか。
■物価が安定し、環境豊かな日本
インフレに悩むアジア諸国と違い、日本では物価が安定している。
交通渋滞も少なく、犯罪が少なく、気候がよく、自然豊かで水や空気が綺麗で環境がよい日本は、世界的に住みやすい国だ。
ストライキや暴動もなく、米国のようにデモが公園を占拠したり、英国のように若者が暴徒化することもない。
中国やインドのように工場で従業員が暴徒化することもない。
■規制による節度を保つ日本
米国や欧州では、80年代以降、金融業界が経済をけん引する時代が続いた。
欧米経済をけん引したのが、サブプライムに代表される証券化ローンだ。
邦銀は、あくまでデリバティブや証券化ローンには慎重だった。
それどころか、日本の金融当局は規制を強化している。
その一例が、金利の上限規制だ。
米国では、ローン金利が数年後に極端に跳ね上がるような商品が蔓延した。
日本では、5−6年前から年率18%を超える金利は禁止されている。
過去、18%を超えた金利を払った消費者には、その金利過払い額が過去にさかのぼって還付された。
こうしたことは、欧米では考えられないかもしれない。
日本の消費者金融業界は、規制強化により、壊滅的な打撃を被った。
一方で、消費者は、年収以上の借り入れをしたり、借金による過剰な消費を継続することができなくなった。
過剰な消費を抑える、ということは、経済にはマイナスになる。
たとえ、経済にはマイナスであっても、多重債務者を生みださない社会を日本は志向した。
これは、欧米の金融行政とは全く逆の動きであった。
■CEOの暴走を許さない日本
欧米の経済を活性化させたのは、減税政策だ。
高額所得者の減税により、リスクをとったものが勝ちという風潮が欧米で広がった。
欧米企業の経営者は、無理なリスクをとるようになった。
一方、日本では、累進課税により、高額所得者には50%程度の課税がなされる。
また、所得の再分配を狙って、高率の相続税が課せられている。
高額所得者にとって、日本は住みにくい国かもしれないが、
米国のように勝者がすべてを独占する不平等なシステムは日本にはない。
そして、日本の経営者の報酬は従業員の年収とたいして変わらない。
欧米の経営者は何十億円も収入を得る。
日本でそんなことをしたら、社会問題になるだろう。
また、日本の企業は、欧米企業のように株主利益だけを優先させない。
地域社会や従業員や株主がバランスをとって、
そのバランスの上にだけ、株主の利益が存在する、という哲学である。
日本の経営者は、どちらかといえば、従業員の代表のようなものだ。
従業員を代表しているから、従業員と同程度の報酬で経営をする。
日本企業は、身勝手なリストラは少ない。
不採算の部門があっても、企業は、人を切り捨てることはしない。
成長事業へ人員を移動することで、企業は人を活かそうとする。
そのため、日本では失業率が欧米よりも低い。
日本の社会は、不平等を、是とはしない。
このような日本企業の立ち位置、
つまり、
雇用重視の経営、
決して高額とはいえない経営者の報酬は、
日本の社会の価値観を反映している。
金融は主役ではなく、黒子である。実業が主役である、という価値観。
特に、モノつくりに対する高い評価は、日本人特有の価値観かもしれない。
従業員が会社の主役だという価値観。
また、失業率の低い社会、
つまり、累進課税や高い相続税により、富の再分配機能が働いている社会、機会平等を保とうとする社会は、
日本の高い倫理観によって保たれている。
(次回へつづく)
山本 潤
日本株ファンドマネージャ
(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。万が一、事実と異なる内容により、読者の皆様が損失を被っても筆者および発行者は一切の責任を負いません。)
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山本潤氏の過去コラム → http://okuchika.jugem.jp/?cid=6
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