■銀行機能を否定する最近の出来事■
ここ数日、日本の銀行の存在意義を否定するかのような動きを目にします。
9月26日付の日本経済新聞は、ソフトバンクが、買収したボーダフォンの携帯電話事業の収益を担保にした証券化スキームで、複数の金融機関から1兆4,500億円を調達する方針と報道しました。証券化とは、不動産など事業プロジェクトで利用される資金調達方法で、事業プロジェクトで発生したキャッシュフローが利払いや返済の原資となります。通常の銀行借り入れでは、企業全体が融資の審査対象になるのに対し、証券化の場合は企業全体ではなく、事業プロジェクトのみが審査の対象になります。
ソフトバンクは、ボーダフォンの買収資金として期間1年の短期借入金で1兆1,600億円を調達しています。ただ国債利回りに上乗せされる借入金利は、9月までは2.5%、12月までは3%、そして来年1月以降は3.5%と高めに設定されており、ソフトバンクは、できるだけ早い段階で借り換えをする必要に迫られていました。
通常なら、公募社債による資金調達が考えられるのですが、ソフトバンクの社債格付けは「投機的」水準で、1兆円を超える公募社債の発行は難しい状況です。このためソフトバンクに残された選択肢は、通常の銀行借り入れと証券化の2つとなっていました。
ソフトバンクが銀行借り入れではなく証券化を選んだ理由は、低い借入金利と思われます。報道によると、ソフトバンクは証券化によって銀行借り入れに比べて1%程度低い金利で資金を調達できるようです。今回の調達資金額は1兆4,500億円ですので、ソフトバンクは証券化を選ぶことで、100億円程度利払い負担を軽減することができます。一方、銀行は、証券化ほどの低い金利をソフトバンクに提示できなかったことで、1兆4,500億円の融資案件を取り逃がしたことになります。
9月27日、日興コーディアル証券は、トヨタファイナンス、ビザ・インターナショナルと連携し、買い物などの代金を証券総合口座から円もしくは米ドルで決済できる新型のデビットカードを10月に発行すると発表しました。これにより日興コーディアル証券の顧客は、MRF(マネー・リザーブ・ファンド)と、米ドル建てMMF(マネー・マーケット・ファンド)口座から資金を引き出すことなく、新型カードで買い物をすることが可能になります。
これまで、一般の消費者は、買い物の代金を支払うために、銀行(もしくは郵便貯金)口座を利用する必要がありました。たとえば、現金で買い物をする際にも銀行口座にお金を入れておき、必要に応じて銀行口座から引き出します。クレジットカードで買い物をする場合でも、消費者は銀行口座での自動引き落としで、クレジットカード会社に代金を支払います。
ところが今回の日興コーディアルによる新型カードを利用すると、消費者は銀行口座を利用することなく買い物をすることが可能となります。銀行の普通預金金利が0.10%程度である一方、証券会社のMRF口座の予定利回りは0.23%程度と、銀行の倍以上の金利水準であることを考えると、消費者は、銀行ではなく証券会社にお金を預けて、買い物をした方が合理的ともいえます。
これまで銀行には、決済、運用、調達の3つの機能がある、と古くからいわれてきました。しかし、証券化といった新しい手法で、企業は銀行借り入れを利用する必要がなくなれば、銀行の運用(融資)機能は低下することになります。また、証券口座で買い物が可能になれば、消費者は銀行口座を利用する必要性が薄くなり、銀行の決済機能や調達機能は低下することになります。
長い間、日本の銀行は、不良債権処理という大きな課題ゆえ、なかなか成長軌道に乗ることができずにいましたが、不良債権処理に目処がたったこともあり、日本の銀行の復活を期待する声も最近聞かれるようになっています。しかし、銀行の3つの機能を否定する動きを目にすると、日本の銀行は、不良債権処理以外にも大きな課題が残されているようにも思えます。
村田雅志(むらた・まさし)
(GCIキャピタル・チーフエコノミスト)
<筆者について>
三和総合研究所、三和銀行にて産業機械アナリスト、
UFJ総合研究所にてエコノミストとして活動後、
2004年にGCIアセットマネジメント入社。05年9月より現職。
現在、コンテンツ事業の立ち上げに奮闘中。
GCIグループ初の投資情報サイト【Klugクルーク】にて、投資に関するコラムを執筆中。
<主な著書>
「景気予測から始める株式投資入門」(パンローリング)
「絶対リターンを目指すオルタナティブ投資」(すばる舎)
(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。)
ここ数日、日本の銀行の存在意義を否定するかのような動きを目にします。
9月26日付の日本経済新聞は、ソフトバンクが、買収したボーダフォンの携帯電話事業の収益を担保にした証券化スキームで、複数の金融機関から1兆4,500億円を調達する方針と報道しました。証券化とは、不動産など事業プロジェクトで利用される資金調達方法で、事業プロジェクトで発生したキャッシュフローが利払いや返済の原資となります。通常の銀行借り入れでは、企業全体が融資の審査対象になるのに対し、証券化の場合は企業全体ではなく、事業プロジェクトのみが審査の対象になります。
ソフトバンクは、ボーダフォンの買収資金として期間1年の短期借入金で1兆1,600億円を調達しています。ただ国債利回りに上乗せされる借入金利は、9月までは2.5%、12月までは3%、そして来年1月以降は3.5%と高めに設定されており、ソフトバンクは、できるだけ早い段階で借り換えをする必要に迫られていました。
通常なら、公募社債による資金調達が考えられるのですが、ソフトバンクの社債格付けは「投機的」水準で、1兆円を超える公募社債の発行は難しい状況です。このためソフトバンクに残された選択肢は、通常の銀行借り入れと証券化の2つとなっていました。
ソフトバンクが銀行借り入れではなく証券化を選んだ理由は、低い借入金利と思われます。報道によると、ソフトバンクは証券化によって銀行借り入れに比べて1%程度低い金利で資金を調達できるようです。今回の調達資金額は1兆4,500億円ですので、ソフトバンクは証券化を選ぶことで、100億円程度利払い負担を軽減することができます。一方、銀行は、証券化ほどの低い金利をソフトバンクに提示できなかったことで、1兆4,500億円の融資案件を取り逃がしたことになります。
9月27日、日興コーディアル証券は、トヨタファイナンス、ビザ・インターナショナルと連携し、買い物などの代金を証券総合口座から円もしくは米ドルで決済できる新型のデビットカードを10月に発行すると発表しました。これにより日興コーディアル証券の顧客は、MRF(マネー・リザーブ・ファンド)と、米ドル建てMMF(マネー・マーケット・ファンド)口座から資金を引き出すことなく、新型カードで買い物をすることが可能になります。
これまで、一般の消費者は、買い物の代金を支払うために、銀行(もしくは郵便貯金)口座を利用する必要がありました。たとえば、現金で買い物をする際にも銀行口座にお金を入れておき、必要に応じて銀行口座から引き出します。クレジットカードで買い物をする場合でも、消費者は銀行口座での自動引き落としで、クレジットカード会社に代金を支払います。
ところが今回の日興コーディアルによる新型カードを利用すると、消費者は銀行口座を利用することなく買い物をすることが可能となります。銀行の普通預金金利が0.10%程度である一方、証券会社のMRF口座の予定利回りは0.23%程度と、銀行の倍以上の金利水準であることを考えると、消費者は、銀行ではなく証券会社にお金を預けて、買い物をした方が合理的ともいえます。
これまで銀行には、決済、運用、調達の3つの機能がある、と古くからいわれてきました。しかし、証券化といった新しい手法で、企業は銀行借り入れを利用する必要がなくなれば、銀行の運用(融資)機能は低下することになります。また、証券口座で買い物が可能になれば、消費者は銀行口座を利用する必要性が薄くなり、銀行の決済機能や調達機能は低下することになります。
長い間、日本の銀行は、不良債権処理という大きな課題ゆえ、なかなか成長軌道に乗ることができずにいましたが、不良債権処理に目処がたったこともあり、日本の銀行の復活を期待する声も最近聞かれるようになっています。しかし、銀行の3つの機能を否定する動きを目にすると、日本の銀行は、不良債権処理以外にも大きな課題が残されているようにも思えます。
村田雅志(むらた・まさし)
(GCIキャピタル・チーフエコノミスト)
<筆者について>
三和総合研究所、三和銀行にて産業機械アナリスト、
UFJ総合研究所にてエコノミストとして活動後、
2004年にGCIアセットマネジメント入社。05年9月より現職。
現在、コンテンツ事業の立ち上げに奮闘中。
GCIグループ初の投資情報サイト【Klugクルーク】にて、投資に関するコラムを執筆中。
<主な著書>
「景気予測から始める株式投資入門」(パンローリング)
「絶対リターンを目指すオルタナティブ投資」(すばる舎)
(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。)