本日、日本ケミコン(6997)という会社を取材する予定です。アナリストが、どのようにして準備をするのか、取材の準備について書いてみます。
1. 取材してみようかな、と思ったきっかけ
2日前のことでした。
きっかけは、バリエーションでした。
含みが130億円、時価総額670億円。
EBITDAが今期予想で152億円。
EV(エンタープライズバリュー、企業価値)は、950億円程度。
つまり、EV/EBITDAは6.3倍。
人気銘柄は15−20倍ありますから、ケミコンはきわめて不人気です。
でも安い。気になる。
さっそく、取材アポをとります。
2.不人気の理由を考える
つぎに、不人気の理由です。
アルミ電解コンデンサーで首位。
株式市場はアルミ電解コンデンサーは成熟製品であると決め込んでいます。
これはもっともです。
アルミ電解コンの用途は、インバーター向け(モーター制御、エアコン、蛍光灯など)、放電用度(カメラフラッシュ)、バクアップ電源向けです。地味です。
3.なにか新しい用途がないのか、技術トレンドの変化はないのか
資料を集めます。
まず、財務資料として決算短信、事業資料として、アルミ電解コンデンサー関連の資料。
いずれも、HPからダウンロードできました。
資料を読んでみます。
4.資料から重要な情報を羅列する
ポイントとなりそうな点を書き留める。
・表面実装ができるようになって日が浅い。電源分野DC・DCコンバーターで低インピーダンスの固体電解質を用いたアルミ電解コンが使用され始めた(なになにされ始めたという表現はチェックします)。デジタルビデオカメラ、携帯、ノートPC、カーCD、FDD、LCD、CD-ROMなどに、横型のアルミ電解コンが使用され始めた。
・高耐圧、長寿命、ACがからむところに適している。
・インバーター用フィルター、電源ラインのノイズに適す
・タンタルよりコストはかなり安い(アルミがタンタルより安いから)
・要素技術は、アルミ皮膜のエッチングと誘電体薄膜技術。電気特性計測技術。電解質材料、特に今後は有機半導体の固体化。もれ、蒸発防止など、封止技術。
・アルミコンの市場は月50億個以上。
・アルミ表面積は、エッチング後、高圧もので20倍、低圧もので100倍になる
・低ESR、大容量、急速な電圧変動への対応が課題。陰極材の開発が重要。陰極材は従来、二酸化マンガンかTCNQ錯塩。高分子として、ポリピロール、ポリアニリンも知られている。一部は実用化の目処。ケミコンは、縮合型複素環化合物を新開発。
・35WV、数十マイクロファラッド、チップタイプを開発
・カーエレクトロニクス。ワイヤーハーネスの削減や省スペースのため、電子回路の搭載場所は車内からエンジンルームやコントロールアクテュエータ周辺へ移っている。これにより搭載される部品の温度ストレスが大きくなり、温度範囲は、-40度から125度でになっている。低温におけるインピーダンス特性は重要(特性が悪いと、回路設計が複雑になってしまうためだろうな)。高温における寿命も重要。電解は溶液。蒸発防止(封口材料)が重要。ケミコンは、低圧用電解液を自社開発。
・海外自動車メーカーは電圧を12Vから42Vにする動きがある。
・ハイブリッド、電気自動車など、アルミコンの応用分野は広がりつつある。
5.質問を整理する。論点を考える。
・成熟産業というイメージのための低評価。携帯を捕えたセラコンの攻勢があるため、地味な使用法しかないアルミコンは、どうしても物足りない印象となる。
・電動パワステなど、今後主要となるインバーター技術のポテンシャルを計算する
・EL、LEDなど、照明分野において、今後インバーターが不要な分野のデメリットを計算する。
・エッチング技術。ウエットなのか、ドライエッチングなのか。どの程度まで細かく、深く、表面処理ができるのか。その結果、容量はどこまで引き上げられるか。
・誘電膜の新素材はどうなのか。
・材料費率。
・特許の整理。
・ライバルのチェック。ケミコンから見た競合状況。自社の優位性
・新陰極材によって、特性はどの程度改善したのか
・海外生産比率50%を目指す。どこを拠点にするのか
・資産効率はまずまず。経営指標のチェック
6.買う基準、買わない基準を設定する
・投資家の視点(株の見方)が変わる可能性がある場合は、株式の購入を検討する。
・数量成長で15%を超える見通しが立つこと(条件1)
・材料比率が50%以内であること(条件2)
・アジア勢との差別化についての根拠の度合い(条件3)
・新市場が5年以内に全売上の20%以上を占めること(条件4)
以上の4条件をすべて満たす場合に限り、購入する。
さて、こんなところでしょうか。読者の皆さんの参考になれば幸いです。
あれっ、仕事と「億近」のコラムとを混同してしまった!
「億の近道」の原稿がそのまま取材の準備となってしまった。
しかし、今回は取材の準備について書いたのだから、しかたがないですよね。
それでは、日本ケミコンにいってきまーす!
〔2000年7月13日掲載〕
(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。)
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