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利子と利回り

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■有限の現実世界と無限の複利世界

 全宇宙の原子の数は10の80乗を越えない程度であることが観測結果からわかっているそうです。
 複利で1000年運用すれば、計算上、宇宙の原子の数を超える金銭価値が得られます。
 1円のコインに原子が何個使われているかを考えれば、10の80乗億円のコイン(コイン10の80乗個)を実現することは不可能です。

 ネズミ講は必ず破綻するのは、複利の世界が現実の世界とは全く違うからです。


■複利計算

 小さな塵も、積もり積もれば、山となる、といいますね。

 株式投資では、将来の配当や業績の見通しが不確実です。
 様々なリスク、つまり、不確実性があります。
 それらは、期間が長ければ長いほど、積み上がっていきます。

 公共性が高い事業には、国有化のリスクがあります。
 この先、10年間は顕在化しないかもしれませんが、20年先、30年先はわかりません。
 ですから、30年間のリスクは20年間のリスクより相応に高く、リスクは期間に応じて、複利で増えていきます。
 複利でリスクを捉えるならば、50年先のリスクは大きすぎる。だから、どんなにリターンがあっても、リスクの大きさから、そのリターンはカウントされない。

 1000年の寿命がある橋と50年の寿命がある橋とが同一な価値とされるのです。

 現状、6−7%のリスクが株式には観察されています。
 そうしたリスクを複利で計算するのが現代の投資理論です。

 配当を現在価値に割り引くと、たとえば、50年先以降の配当はもはや現在価値がゼロと算定されます。

 複利のリスクは、単に、確率の計算にすぎません。
 実際に起こりうるだろうリスクたちをすべて集めて合計したものです。
 そして、このぐらいならリスクをとっても、投資として割が合うな、割が合わないなという判断材料になっているのです。

 具体的には、今の株価と将来の配当の列とを比べて、投資の回収の見通しやリターンの見込みを検討するわけですね。


■短期志向を産んだ現代の投資理論

 複利計算でリスクを計算するため、息の長い長期のプロジェクトは敬遠されます。
 すぐに儲かる短期決算型のプロジェクトが好まれるのです。

 たとえば、1000年の寿命がある橋と50年の寿命しかない橋があり、橋の価値を測るとしましょう。
 1000年の橋は50年の橋の40倍の価値があるはずです。

 ところが、投資理論では、50年先以降はゼロと査定されますから、50年の橋も1000年の橋も同じ価値と判断されるのです。

 複利の世界では、本当に価値のある現実の世界のプロジェクトがゼロ査定、つまり、「無価値」となってしまうのです。


■価値あるものが無価値とされる投資理論

 この矛盾のために、机上の計算であるはずの利子は、短期のものとして、限定的な条件の中だけで許されてきました。

 古代ローマでは、債務者が死去したときに、債務も消滅する、というこれまでにない新しい立場をとりました。
 借金取りは、かつては、債務者が死んでも、その親族や子供たちに債務が受け継がれる、という立場でした。

 日本でも、つい最近まで、20%を超える高利のサラ金が社会問題となりました。
 1万円の借金が10倍、100倍にすぐになってしまう自然界には存在しない複利の暴力が合法化されていました。

 複利の暴力に対して、時代は、様々な対抗策をとってきました。
 例えば、古代ローマでは、借金は死んだら返さなくてもよいという制度が導入されました。
 無限に膨らむはずだった利子に債務者の「寿命」という制限をつけて、複利の暴発を抑えることで現実の世界を守ったのです。


■複利が世界規模で許された現代とその終焉

 事情が変わったのは、現代。

 株式会社が制度上、寿命がないため、自己資本をどんどん膨らませていく一握りの勝ち組企業群に対して、現制度では有効な対抗策がありません。
 タックスヘイブンに資産が移れば、課税できないからです。

 どんな企業であっても、必ず、社会インフラを活用して利益を得ています。
 たとえば、自動車メーカーは、道路を国民のおカネで整備したから、車が売れるのです。
 ですが、メーカーは日本国には十分な税金を納めません。

 本来なら、道路の整備も車メーカや運送会社が負担するべきだ、となっても、全く正当な議論であり、それは、おかしなことではありません。
 現実は、車を所有する人々からの税金で世の中を回しているのだから、会社はいいとこだけをとっているわけです。

 あるメーカーの資本は50年で1万倍以上になっています。
 このペースで資本が増えていったので、株式の投資家は儲かったのです。


■実世界の自然利子と空想世界の計算上の利回り

 そもそも、利子という概念は、生命の成長と密接に関わっていると思います。
 文字通り、人間にとって、「利となる子」たちです。

 たとえば、森林は、ある環境の中では、1−2%の樹木の総量を増やすことができます。
 バイオマスは、太陽エネルギーや水などの天然資源や生命という種の保存の法則を使って、過不足なく、無理なく、燃料を自然から頂戴しようという作戦です。

 こうした自然からの恵みで、人類は2万年ともいわれる期間、生き延びてきました。
 家畜や農業は自然の利子率の法則で運営されています。
 穀物は、実り、種を残し、その種を巻き、また、実る。それを何千年と繰り返す。
 牛からミルクをいただく。牛が子供を生む。その子供が大人になる。ミルク
をいただく。それを繰り返す。

 それで世の中が回るのは、麦に寿命があり、牛に寿命があるからです。
 生命体が細胞分裂を繰り返しても、世の中が回るのは、細胞がほどよく死んでくれるからです。

 状況が変わったのは、
 産業革命と資本主義が結びつき、帝国主義の領土の拡大が進み、勝ち組の企業が富を寡占化していった後です。

 つまり、現代。

 イノベーションにより、供給能力が大幅に増す中で、勝ち組が寡占化する過程が、たまたま、資本が複利で増えるという現象に見えただけ。
 それは、たまたま、この100年間だけ、可能であっただけ。

 株式投資のリターンとは、現象であって、過去、たまたまよい時代があった、ということにすぎません。

 いま、もう、ビジネスに拡大余地はなく、地球が供給過剰に陥りましたね。
 もう、現代で、貨幣に利子をつける正当性は全くありません。

 もともとは、利子は自然の恵みであったのです。それは、親が死ぬから、均衡が保たれていたのです。

 一方、ビジネスの世界の利子とは、リスクの裏返しの確率計算にすぎないのです。
 ところが、法人が死なないため、利子という調達概念が、事業利回りという運用概念に置きかわりました。

 時間軸を伸ばせば、利益が全宇宙の原子の数の制限を越えてしまう。

 複利とは本当に恐ろしい魔物です。

 対策は、みんなで考えるしかありません。
 グローバル企業にあと命は50年だけね、という企業寿命を人工的に導入するのが一案。
 あるいは、グローバル企業を選定して、その内部留保にすべての国が毎年一律に課税するの案も有力です。

 いま、利回りという複利現象は、寡占化を通して、ブラックホールのように、世の中の財を大企業が吸収しています。
 そして、彼らは、その財を溜め込むだけで、社会へ十分な還元がありません。

 10の80乗という宇宙原子の数は物理的に越えられません。
 勝ちすぎたグローバル企業は、自然界の摂理に反します。


■あとがき

 事業を複利計算で見積もることよりも、長期の視点で、プロジェクト評価を行うことで、短期の利回り志向を脱却すべきかなと思えます。

 現在価値ではなく、未来価値へ。

 単に利益の出る仕事ではなくて、社会にとって意義のある仕事を長期で行うように心がけたいものです。

 1000年の橋を次世代と共に描きたいものです。
 1000年の国家像を考えることで、短期志向に染まりすぎた私たちの頭を、一度、リセットしてみたいものです。

 10の80乗個の原子の中の一部でもある私たちの有限な命を、本当に意味のあること、意義のあることにだけ使いたいものです。


日本株ファンドマネージャ
山本 潤


(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。万が一、事実と異なる内容により、読者の皆様が損失を被っても筆者および発行者は一切の責任を負いません。)


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