書評:銃・病原菌・鉄(下) 1万3000年にわたる人類史の謎





 書評:銃・病原菌・鉄(下) 1万3000年にわたる人類史の謎
 ジャレド・ダイアモンド 著 草思社
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●「愛と思いやりの社会」と「恐怖と暴力で支配される社会」

 本書は<銃・病原菌・鉄>を主題とした文明論であるが、人類の「コミュニケーション」について述べた本とも言える。

 「銃による殺し合い」、「病原菌による感染」、「鉄という「知識」の伝達」はどれも、人間と人間の間のコミュニケーションによって発生する。

 著者は「我々が未開だと思っているアボリジニなど狩猟採取生活をしている人々の方が個体としては優秀だ」と述べている。

 筆者も全くその通りだと思う。例えばアボリジニに限らず、ナイジェリアなどでも「弱い乳幼児」はすぐに死亡する。厳しく言えば自然淘汰だ。日本のような先進国ではごく当たり前の「保育器」など提供されない。

 また、高齢者も自分で自分の面倒を見ることができなくなれば自然死を迎える。日本をはじめとする先進国のような長寿社会とは無縁であるし、バリア・フリーや寝たきり生活を支える社会的基盤も無い。

 つまり、先進国社会では、自然淘汰では排除されえるはずの「弱い人々」を高い社会コストをかけて支えているのだ。

 このことは、一見すると無駄なことのように思えるので、共産主義やファシズムなどの国々では「優性主義」に基づいて、「役に立たないように思える弱者」をターゲットとした虐殺が繰り返されてきた。

 しかし、これは人類がどのように発展してきたのかを理解しない愚かな考え方である。

 人類が発展できたのは巨大な「社会」=「チーム」を構築する能力がすぐれているからである。

 例えば、初期の狩猟採集社会では、せいぜい数十人くらいまでの部族単位で行動していたが、より大きく強い部族に吸収される形で、社会(組織)が成長し、国家と呼ばれるものにまで巨大化した。

 例えば、1億人(匹)とか3億人(匹)という単位の集団は、大型哺乳類では到底考えられない大きなものである。

 この巨大集団は二つの要素で統率されている。「暴力と恐怖」と「愛と思いやり」、つまり鞭と飴である。

 どのような先進的な国でも、凶悪犯罪者は暴力によって死刑に処せられたり、刑務所に押し込められたりする。そして、その恐怖が犯罪を抑止し、治安を保つ。

 しかし、それだけでは獣にしか過ぎない。人間だけとは言わないが、少なくとも近代において人間社会を維持する重要な要素として「愛と思いやり」は欠かせない。

 例えば、ギリシャ・ローマ時代のガレー船の漕ぎ手や、かつての米国南部の農園のブラウン人(黒人)奴隷たちを鞭うって無理やり働かせるのは可能であっただろう。ただ、労働を強制する奴隷労働は共産主義の計画経済(働く個人の収入を認めない共産主義は農奴制と全く同じ仕組みで、荘園領主が共産党に変わっただけである)でその非効率性が明らかになったし、豊臣秀吉の墨俣一夜城などの土木工事での成功は、やる気の無い人夫たちにいくら労働を強制しても無駄で、インセンティブを与えてやる気にさせることが、どれほど効率性が高いかを如実に示している。

 したがって、自然淘汰で排除されるはずの弱者を救い上げ守る「愛と思いやりの社会」の方が、「恐怖と暴力で支配される社会」よりも優位に立てるのだ。


●創意・工夫を鞭で支配できない

 人間社会が高度な社会を築くことができるようになった最大の理由は、農耕によって余剰生産物を生み出すことができるようになった点にある。

 酋長も皆と同じように狩りに出かける部族社会での専門化は、総人数の点と食料獲得のできない人々を養うことが困難であるという二つの点で実現可能とは言えない。

 余剰食糧の生産だけでは無く、それを貯蔵する手段の発達によって社会集団が大きくなり、専門家を多数抱えることができるようになった。

 この専門知識の集積と「交換」によって、驚くほど高度な文明が人類の歴史と比べれば1瞬ともいうべきここ1万年ほどの間に発展した。特に産業革命以降の驚異的発展をグラフ化すれば、あっという間に天空まで届きそうな驚異的スピードである。

 重要なのは、このような知識=創意・工夫は、より多くの「交換」が行われることによって加速するということだ。

 過去の歴史において、人口密度の高さと社会集団の規模が「交換」を促す重要な要素であった。それは現在でも同じだが、通信技術が発達した現在では「自由な交換」がより一層重要になってくる。

 例えば、ファシズムや共産主義が支配する社会で、自由な情報の交換は望めない。したがって、自由な交換が可能な、資本主義・民主社会が極めて有利なのである。

 米国が金融やITで派遣を握ることができたのも「交換が自由な社会」であるからだ。

 逆に人民を恐怖と暴力で支配する、ファシズムや共産主義の国々では優秀な研究者や起業家の自由な創意工夫が生まれにくい。いくら鞭で打っても、バイオやITなどの先端研究で勝つことはできない(盗むことによって追いつくことはできるかもしれないが・・・・)。

 結局、自然淘汰の結果選ばれた人々が個々人としては優秀であっても、「恐怖と暴力が優勢である社会」は「愛と思いやりが優勢な社会」に、社会(チーム)全体としては勝てないのである。


(大原 浩)


★2018年4月に大蔵省(財務省)OBの有地浩氏と「人間経済科学研究所」
(JKK)を設立しました。HPは<https://j-kk.org/>です。
★夕刊フジにて「バフェットの次を行く投資術」が連載されています。
(毎週木曜日連載)


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孫子と三賢人のビジネス その8



産業新潮 
http://sangyoshincho.world.coocan.jp/
5月号連載記事


■その8 一撃必殺

●熟慮して行ったたった一つの決断が成功しないのなら、それより集中力が劣った多数の決断がうまくいくはずが無い



 ウォーレン・バフェットは小見出しのような警句を発しています。
 しかし、世の中の大多数の人々の考えは違うようです。以前ある投資家の方とこんな会話をしたことがあります。

 「大原さん、私はものすごくたくさんの利益を投資で稼ぎたいんです。そこで、できる限り売買の回数を増やしたいんですが、やはりコンピュータにやらせた方がいいですか?」

「???投資は必ずしも儲かるとは限りませんから、たくさん売買すればよりたくさんの損をすることになるかもしれませんよ・・・」

「大原さん、1万円での取引でたった百円のもうけでも、10万回やれば1000万円の儲けになるわけです。専門家なのにこんな簡単な計算もできないのですか?」

「・・・・・」

 賢明な読者なら、この話が全くかみ合っていないのが良くお分かりになるかと思います。ほとんどの投資家の方は、「投資をする前には儲かることしか考えず、投資した後は損をしたことばかりを後悔する」ので、このような発言が出てくるのでしょう。

 投資家がたくさん売買して儲かるのは、(証券)取引所と証券会社などの金融機関です。それに対して、投資家は取引のたびに手数料を支払うわけですから、その都度手数料という損が確実に積み上がります。
 また、(自分から行動を起こす場合)買い手の場合は売値、売り手の場合は買値でしか取引できませんから、売り根と買値の差額の「損」も無視できない金額になっていきます。

 バフェットが「一度企業(株式)に投資したら、できる限り永遠に保有」するのは、企業の将来に自信があるだけではなく、頻繁な売買による無駄な出費を避けるというのも重要な理由の一つです。

 少なくとも、M&Aの世界で、やたらに買収を繰り返す企業と、投資先を厳選し一撃必殺を目指すバフェットのどちらが成功しているのかは、説明するまでもありません。


●一撃必殺とベンチャー・企業再生

 孫子は、「戦いが巧みな人は、【勢い】を岩石をも貫く水の流れまで高め、ライオンが獲物をとらえるときのように、一瞬の【一撃】を強烈なものにする」と述べています。まさに、バフェット流ですが、これには一つの大きな前提があります。これはあくまで戦いに勝つための「戦術」ということです。

 例えば、すでに軍隊が存在(既存軍隊)し、その軍隊を最大限に活用して勝利を重ねていくための法であるということです。ですから、これから軍隊をゼロから整備する場合(ベンチャー軍隊)は話が別です。

 また、バフェットも「成功したビジネスに投資して、より一層成功させる」タイプの投資家・経営者です。したがって、その投資先のほとんどは、順調な経営を行っている会社です。時々、世間一般から「問題を抱えている」とみなされる企業に投資をすることがあります。


続きは「産業新潮」
http://sangyoshincho.world.coocan.jp/
5月号をご参照ください。


(大原 浩)


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書評:二宮尊徳 財の命は徳を生かすにあり






 書評:二宮尊徳 財の命は徳を生かすにあり
 小林惟司 著、ミネルヴァ書房
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●真の革命家・尊徳

 二宮尊徳(金次郎)は歴史に名を残す有名人だが、その功績・人柄が誤って伝えられている典型であろう。

 戦前の修身の教科書に、明治天皇の次に多く取り上げられていることから、軍国主義教育と結び付けられがちだが、むしろ尊徳は戦後GHQや米国人の研究者から「リンカーンに匹敵する民主主義の巨星」とほめたたえられたくらいである。

 まず、農民から幕臣にまで大出世したことだが、本人が望んだことでは無い。むしろ、尊徳のすぐれた行政・財務改革に嫉妬・畏怖した小田原藩の家老をはじめとする武士の抵抗勢力が、小田原藩の改革に口を出せないように祀り上げてしまったというのが真相だ。

 実際、ほぼ同じ時期に小田原藩はとてつもない功績を残した尊徳に、藩への出入りを禁止するという忘恩行為を行った。逆に言えば、尊徳は権力を握る武士たちから恐れられていたのである。

 さらには、入浴中に槍で突き刺されそうになるという暗殺未遂事件まで起きている。

 言ってみれば、キューバ革命の立役者チェ・ゲバラのように、民衆とともに国を創っていこうという強い意志を持った人物であったのだ。

 ただ、悲しいかなゲバラは暴力で政府を打倒し、恐怖と暴力で民衆を支配する共産主義の道を誤って選択したために、悲劇的な最後を遂げることになった。

 それに対して尊徳の選択は、マハトマ・ガンジーの「非暴力不服従」に似ている。江戸時代の革命行為といえば一揆や打ちこわしであったが、それらには一切関与しなかった。

 非暴力について言えば、暴力行為で、農民(庶民)の暮らしが良くなるわけでは無い。むしろ新田を開発し、治水などの土木工事を行い、既存の田畑の生産性をあげることこそ、農民を幸せにすることだという信念があったのだと思う。

 また不服従も徹底している。いくら藩や幕府の重臣たちからの依頼であっても、行政・財政改革が成功する条件がそろっていないと考えるときっぱり断る。封建社会ではとても勇気のいる行為だ。

 過去に素晴らしい行政・財政改革を行った実績があるとともに、その恩恵を受けた農民たちの支持があったからできたとも言える。

 現代で言えば、一介のサラリーマンが、財務省・厚生労働省などの官僚のていたらくに悩む首相から任命され、(地域限定とはいえ)行政・財政改革のリーダーになるようなものだ。

 しかも、尊徳は「分度」という財政支出の上限を決めなければ、仕事を引き受けなかったから、官僚である武士の給与は事実上尊徳が決めることになる。武士(官僚)たちが尊徳を憎んだのも当然といえる。

 実際、現在の日本の官僚組織は幕末の武士よりもひどいかもしれない。尊徳のような真の革命家が登場することを願う。


●ダヴィンチ・空海と尊徳

 ダヴィンチも空海もマルチ人間として有名だ。同じように尊徳もマルチ人間である。

 科学の面では、治水工事、農業秘術などにおいて、当時最先端の技術を駆使している。ブラックな長時間労働では無く、科学的農業によって生産性を向上させたことが、世間に知られていない「二宮マジックの秘訣」である。その知識・洞察は、薪を背負いながら本を読む(この話そのものは創作のようだが…)読書家であったことと、農業の現場を科学的な視点で観察したことによって得られた。

 また、空海も宗教家ではあるが、唐から学んだものや修験道者のものといわれる豊富な知識を使った治水工事などで、農村を豊かにしたことが現在まで敬われる理由だ。

 また、驚くべきことに、複利の概念をきちんと理解し実践している。
 例えば、元金1両を年間5%で運用すれば、180年後には6800両になる(100万円が68億円になる)。尊徳の財政改革においてこの複利の概念は極めて重要である。

 ただし、得た利益を使ってしまっては、この複利効果が効かないから、「分度」(支出限度)を定めてその範囲で生活することが極めて重要なのだ。

 さらには、彼の弟子たちによって日本初の信用組合である掛川信用組合(現在でも掛川信用金庫として活動している)が設立された。

 尊徳が確立した互助金融組織「報徳講」の「無利息貸付」は画期的なものである。当時15%〜20%という高利で借金をしていた多くの人々が救われた。期限が来たときに「元金」に「お礼」を添えるのが通例であったが、概ね1年分の利息程度(借入期間は5年〜10年)であったし、あくまで任意である。

 再建(発展)途上においては、元利を徴収しないというのも、現在の再生ファンドやベンチャーファンドと同じである。

 尊徳のたぐいまれな能力と先見性、さらにはその哲学は現在でも価値がある。残念ながら敗戦後、軍国主義の象徴として銅像などが破壊されたのは悲しいことである。

 GHQ(米国)は、むしろ尊徳の著作を米国独立宣宣言にも匹敵する「民主主義」のお手本と評価し、戦後各種団体の名称から冒頭の「大」の文字を外すよう指導を行った時も、尊徳の教えを受け継ぐ「大日本報徳社」は、民主主義の偉大なリーダーとして例外にしたほどである。


(大原 浩)


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書評:生物化するコンピュータ





 書評:生物化するコンピュータ
 デニス・シャシャ&キャシー・ラゼール著、講談社
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●デジタルは原始的である

 「生物化するコンピュータ」という言葉の持つ意味は大きい。人類の文明において「デジタル」が表舞台に登場してきたのは、ここ半世紀ほどのことである。それまでは、すべて基本的にはアナログであった。

 現在のトルコに残された、現存する人類最古の遺跡とされる「ギョベクリ・テペ」の時代から約1万年、同じ祖先からサルと分岐したのが2800万年から2400万年前頃と推定されていることを考えれば、ごくごく最近の話だ。

 だから、世の中で「人類はアナログからデジタルに進化する」という考え方が流布するのも仕方が無いのかもしれない。


 しかし、これはまったく間違った考えである。

 生物はデジタルからアナログへ向かって進化しており、特に人間の脳はアナログだからこそ、高度な情報処理ができるのだ。

 例えば、人間の両目の視野は実のところ両手を広げたときに先端が見える180度あるのだ(実際に意識を集中すると前を向いたまま、両手の先端が見えるはずである)。

 それだけの範囲のいわゆる「動画情報」をすべて脳で処理しようとすると、あっという間にパンクする。だから、脳は普段視線の先のごく狭い範囲だけの情報を丁寧に処理し、その他の情報は、ほとんど右から左に流してしまうから、見えているようには思わないだけである。

 つまり、脳はアナログでファジーな情報処理をしているからこそ高機能なのである。今騒がれているAI(人口知能)は、実のところチェス・碁・電話の受け答え・クイズなど脳が処理している膨大な情報の一部だけをとりだして、デジタルで処理しているだけに過ぎない。

 だから、人間の脳と同様に高度な処理を行うことができる本当の意味でのAIの登場はまだまだ先であり、コンピュータはまだまだデジタルという原始時代にいるのである。

 したがって、コンピュータの進化が「生物化」を目指すものであることは間違いない。


●アナログの方がデジタルよりもすぐれている

 例えば、コンピュータのプログラムを書くときに、コンピュータは壊れないことを前提とする。デジタルはすべてを「正確に決定」しなければならないから、必然的にそうなるのだ。

 しかし、実際のところは、地球上では「宇宙線」あるいは「素粒子」が飛び交っており、コンピュータはその影響を受ける。コンピュータがフリーズする理由の一つは「宇宙線」や「素粒子」によって回路・プログラムが損傷することである。

 もちろんDNAも「宇宙線」「素粒子」によって傷つくが、それはファジーな生命システムによって修復される。ちなみに、生物の死は、DNAを修復し続けると、ある段階から修復するよりも、新品に取り変える方が効率的になるという理由で存在する。そもそも、個体の死と誕生が無ければ、次の世代で進化することがでない。

 つまり何十年も乗ったオンボロ自動車は、燃費も悪くすぐに故障するから新車(新生児)に乗り換えたほうが効率的だというのが自然界の原理である。

 確かに、デジタルはいわゆる「デ―タ処理」にはすぐれている。会計データ・統計データをはじめとする処理能力は、人間をはるかに凌駕する。しかし、その能力は「ゼロ」と「1」を行ったり来たりする、賽の河原の石積みを辛抱強くかつ素早くこなすもの以上では無い。


 例えば、蝶の羽の模様を考えてみよう。
 この図柄をデジタルでデザインしてみたとしたら、その計算量は膨大だ。
 しかし、例えば盆の上に張られた水の上に何色かのインクを落とすようにデザインしたら、非常に効率的だ。

 自然界のデザインというのは、アナログだからこそ生き残ったのだ。

 そもそも、生物というのはデジタルでは無くアナログだからこそ、エントロピーの法則に逆らって誕生し成長できるのだ。

 また、デジタルは「答えが確実」にある分野では強いが、「答えがあるのかどうかさえ分からない」問題には非常に弱い。

 例えば「未来に何が起こるか」という問題には、デジタルは答えようが無い。しかし、生物というのは、その将来の不確実性に対して、何十億年もの間、アナログで対処してきたのだ。


 <「不確実な未来」には、ファジーなアナログで対応するのが効率的だ>というのが、長年の生物の進化の中で得られた結論である。

 したがって、DNAコンピュータなど、生物にヒントを得たコンピュータが今後発達するのは必然といえる。


(大原 浩)


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書評:二宮金次郎とは何だったのか




 書評:二宮金次郎とは何だったのか 臣民の手本から民主主義者へ
 小澤祥司 著、西日本出版社
 https://amzn.to/2P2DiGQ
 

●二宮金次郎の虚像

 今、二宮といえば、嵐(ジャニーズ)の二宮和也氏をさすのであろうが、二宮金次郎もたぶん日本人なら誰でも知っている有名人である。

 ただ、「いったい何をやった人なのか?」ということについて、明確に答えることができる人は少ないのではないだろうか?


 二宮金次郎は、江戸時代の後期、相模の国(現在の神奈川県)小田原藩の貧しい農家に生まれた。洪水で田畑を失い没落した家の再興を若くして果たし、その再興手腕を藩の重臣の家の再興でも活用。最後には幕臣にも取り立てられた立志伝中の人物である。

 その活躍は、主に現在の栃木県で行われたが、その名声は近隣にも鳴り響いた。

 その中でも、静岡県の掛川市は傍流とも言えるが、後の明治期に至るまで、二宮金次郎の始めた<報徳運動>が綿々と受け継がれ、明治以降の日本政府に<報徳運動>の影響を強く与える礎となった。修身の教科書に天皇の次に二宮金次郎が多く登場するものも、このような流れを受け継いだからである。

 私は、小学校3年生まで、掛川市にほど近い浜松市の小学校に通っていた。

 当時の私は<活字中毒>で、授業が終わるとすぐに図書室に駆け込み、さらに下校を促す「蛍の光」が流れると、家に帰る時間が惜しく、読みかけの本読みながら下校した。当時、家までの10分ほどの道は信号も無く、自動車が通ることもめったになかったので危険では無かった・・・

 そのため、校庭にあった「薪を背負いながら本を読む」二宮金次郎にはとても親近感を持っていた。

 しかし実際は、江戸時代の貧しい農民の子であった金次郎が当時とても高価であった本など買えるはずが無いわけだから、これはたぶん作り話である。

 実際、一般に流布している金次郎にまつわる話は、「虚像」に基づくものが多い。


●二宮金次郎の手法と哲学

 それでは、二宮金次郎の実像とは何なのか。手法面からまとめてみれば次のようになる。

1)「分度」を定める。
  分度器の分度と同じ意味だが、その家(藩)の収入に見合った支出の上限(分度)を定めることが二宮流「財政再建」の一歩である。二宮は、この時に「過去データ」を重要視した。例えば過去10年間の年貢がどのくらいなのかを調べて平均値を出し、その平均値を分度としたのである。これにより、凶作・豊作などの不確定要因に大きく左右されずに、長期的視野で財政再建を行うことができた。

  分度を定めるのは簡単だが、それを守らせるのは困難だ。
  例えば、日本の国家財政は、かなり前から借金だらけで破たん寸前だと騒がれている。ところが日本政府の「分度」はまったく守られていない。
  税収から考えれば50兆円が日本の分度だと考えられるが、実際には国債を発行し続けてその倍の約100兆円を使い続けている。

  誰もが総論賛成で、各論反対だから、実際に分度を守らせるのは並大抵のことでは無い。百姓のせがれの二宮が、上級武士たちを管理監督したのは画期的なことであり、彼が常に不退転の決意で財政再建に取り組んだことが気迫を生み、堕落した武士たちを動かしたのであろう。

  逆に、武士では無いということがしがらみから彼を解放ししただろうし、農民に武士が指導を仰ぐこと自体、武士が相当な危機感を持っていたことの現れである。

2)再投資する。
  二宮の功績は、単に節約したことだけでは無い。その節約して溜めた資金を再投資したことが大きな利益を生み、再建がスムーズに行われたのである。

  二宮自身の家の再興が顕著な例だが、彼は丁稚奉公で小金をためた。そして、なんとか溜めた資金で、猫の額ほどの土地を買い戻した。しかし、彼はそれを自分で耕さずに地主として小作人に耕させたのである。

  それからも、丁稚奉公で溜めた資金と小作料で土地を買い戻しては小作に出すということを繰り返す。最初はちっぽけであった所有地が、少しずつ大きくなり小作料がべき乗的に増大することによって、急速に所有地も増えていくようになる。

  つまり二宮が短期間で家を再興できたのは、巷に流布する「ブラックな長時間労働」のお蔭では無く、知恵をはたらかせた資本家としての行動のおかげなのである。

  現在で言えば、ちっぽけなワンルームマンション投資からスタートして、その家賃や自分の勤労収入で何十棟ものアパートオーナーになるようなものである。

3)利息は後払い。
  また、二宮が主導した「報徳仕法」の活動の中では基本的に無利息で資金を貸し付けた。例えば、5年間無利息で貸し、再建(あるいは事業が成功)した5年後に「お礼」を支払う。

  再建途上で元利を払うのは負担が大きいし、再建の可能性を低めることにもなる。だから成功してから「出世払い」する方式は合理的だ(お礼は任意だが概ねの基準があった)。

  現在で言えば、ベンチャー事業に出資して、上場などの際に利益を得るベンチャーキャピタルと同じ考えである。

  もちろん千三つといわれるベンチャー事業に対して、農業などははるかに成功の確率が高いが、それでも「ニワトリに金の卵を産むまで餌を与える」というのは、同じ考え方である。

4)信用を大事にする。
  前述の「利息後払い」のベンチャーキャピタル的方式は、貸し付けた相手が誠実であるということが大前提である。

  現在のベンチャー企業によく見られるように、「出資金を受けとった途端に遁走」ではシステムが維持できない。「報徳」という思想に導かれ、人間関係が濃密な村社会であるからこそ、無担保で資金を貸せるし、回収も確実だ。

  また、次にだれに貸すのかは合議で決められるのだから、貸してもらう側の人選も日頃の行いなどから、きっちりと行われる。

  金融では「信用の創造」によって、資金流通が潤滑に行われるが、「信用」の源泉は、結局長期間にわたる人間同士の濃密な付き合いの中で生まれるのである。

  ちなみに、日本最初の信用組合とされる掛川信用組合(勧業資金積立組合が前身、現在掛川信用金庫として営業)が報徳運動の中心地掛川で二宮尊徳の教えを受け継ぐ岡田良一郎の手によって生まれたのは偶然では無い。

5)資本主義と共産社会の融合
  二宮が活動したのは、黒船が浦賀に来航するころまでの、江戸幕府が崩壊ヘと向かう混とんとした時代である。

  だからそ、農民出身でありながら幕臣にまで上り詰めたのだが、江戸時代の村を中心とした「共存社会」と「再投資」、「信用の創造」など極めて資本主義的な経済政策との橋渡しを行った人物とも言える。


 資本主義の閉塞感がある現代に、「人間同士の絆を基礎にした報徳運動」を基礎にした「人間資本主義」とでも呼ぶべき卓越した思想を生み出し普及・啓蒙した二宮金次郎の功績は、改めて評価されるべきだと考える。


(大原 浩)


★2018年4月に大蔵省(財務省)OBの有地浩氏と「人間経済科学研究所」(JKK)を設立しました。HPは<https://j-kk.org/>です。
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(毎週木曜日連載)


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孫子と三賢人のビジネス その7



産業新潮
http://sangyoshincho.world.coocan.jp/
4月号連載記事


■その7 勝利を収めてから戦闘を始める

●絶対に損をしないこと

 バフェットの金言の中には次のようなものがあります。

一、絶対に損をしないこと
二、一、の内容を絶対に忘れないこと。

 念の入った表現ですが、「損をする」ことが大嫌いなバフェットらしい表現です。しかし「損をしない」ということは、「挑戦しない」ということとは少々違います。

 バフェットの投資先の大多数は優良な大企業ですが、その購入のタイミングは、世間一般の常識とは異なった大胆なものです。
 古くはコカ・コーラ。同社に投資を始めたときには、自称専門家などから「成長の止まった企業を高値掴みした」と馬鹿にされましたが、その後の同社の成長ぶり、株価の上昇はよく知られています。
 また、ITバブルでは「テクノロジーがわからない時代遅れのポンコツ」とマスコミに揶揄されながらも、ドットコム銘柄などのいわゆるIT関連には手を出さず、後に彼の正しさを証明しました。

 さらに、リーマンショックでは、恐怖におびえる市場の大多数をしり目に大型の投資を次々と大胆に実行していきました。


 バフェットの「絶対に損をしないこと」というのは、損をしたくないから物影に隠れて縮こまっているとか、何もしないでただ眺めているというようなことを意味しているのではありません。物事を実行するときには、まず自分自身に対して「絶対に損をしない」と納得させなさいということです。
 熟慮の上「絶対に損をしない」という確信を持っているからこそ、世間の多数派の考えの全く逆のことを行っても恐ろしくは無いのです。

 ただし、どのような確信を持っていても、人間の能力には限界があります。
 「神様」と呼ばれるバフェットが、それだけ熟慮をした判断であっても、間違える(損をする)ことはあります。しかし、彼がすごいのは、その間違いを率直に認めることです。
 有名な「バフェットからの手紙」の中で、毎年のように自分の犯した間違いを発表し、株主だけはなく全世界(現在はホームページで誰でも読むことができる)に公開します。もちろん全体としては大成功しているバフェットだからこそできる、という見方もあるでしょうが、このように自分の失敗を大胆に公表しているからこそ、「絶対に損をしないこと」という言葉が胸に刻まれ、極めて失敗の少ない投資を行っているのが「バフェット流」であると言えます。


●投資を始めたら投資家のすることはほとんどない

 バフェットは「1年間株式市場が閉鎖されても平気でいられる企業だけに投資をすべきだ」といいます。まさに「勝利を収めてから戦闘を始めている」がゆえに、途中で何かが起こって株価が乱高下しても気にする必は無いのです。実際「すでに勝利を収めている」投資家が、途中で起こる細かなことを気にする必要があるでしょうか?

 ところが、大多数の投資家は「勝てるかどうかわからない」状態で投資を始めてしまいます。「勝てるかどうかわからない」状態ですから、いつもびくびくしています。そして、市場のちょっとした変化でおたおたした挙句「安値で売って、高値で買い戻す」というような馬鹿げたことを繰り返す羽目になります。


続きは「産業新潮」
http://sangyoshincho.world.coocan.jp/
4月号をご参照ください。


(大原 浩)


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書評:銃・病原菌・鉄(上)



 書評:銃・病原菌・鉄(上) 1万3000年にわたる人類史の謎
 ジャレット・ダイヤモンド著、草思社
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 大航海時代以降、欧米が繁栄し、アジアやアフリカなどの人々を植民地化し蹂躙したのは偶然か?必然か?

 本書では、欧米人が現在の世界を支配しているのはタイトルの三つが直接的な原因だと考えているようだが、それは(下)で議論が展開される模様だ。


 (上)ではその三つの直接的原因の遠因について議論が展開される。

基本的には
 1)人類がどのように余剰生産を生み出し、それを活用したのか?
 2)余剰生産を生み出すための、栽培化、家畜化は、世界のそれぞれの地域でどのように発展したのか
 3)後年、南米大陸で、自らの肉体を細菌兵器化し、アステカ人をほぼ全滅させたスペイン人をはじめとするヨーロッパ人は、どのように免疫を獲得したのか?

に関する議論を展開している。


 栽培化・家畜化については、世界に数え切れないほど存在する動植物のうち、栽培化・家畜化に向いているものはごくわずか(例えば植物では主に14種、さらに世界規模で生産されているのは、そのうち小麦、トウモロコシ、コメなど数種しかない)しかなく、面積が広く、気候に恵まれたユーラシア大陸に、その種と良好な生育環境が集中した。

 さらには、東西に広がるユーラシア大陸では、ほぼ同じ緯度の地域で速やかに農耕文化が伝わったのに対し、南北に伸びるアフリカやアメリカ大陸では、緯度ごとに生育環境が異なるので、伝達が難しかった。

 その結果、ユーラシア大陸で「余剰食糧」をベースにした文明が花開いたのである。


 また、家畜化によって、その文化圏の人間は動物由来の病原菌に対する免疫力を身につけた。特に、中世のヨーロッパでは、農民が家畜と一つ屋根の下で生活するのはごく普通であり、病原菌も共有した。

 現代でも、エイズやサーズなどの恐ろしい流行を世界に引き起こす病原菌は、動物由来であり、人間に感染することにより病原菌が変化するのだ。

 したがって、家畜化が遅れていたアメリカ大陸のインディアンたちはまったく免疫を持たず、<歩く生物化学兵器>によってほぼ全滅に追い込まれたのだ。


(大原 浩)


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書評:ニュートン2019年4月号統計と確率




 書評:ニュートン2019年4月号統計と確率
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 投資の神様ウォーレン・バフェットは、「投資をするのに高等数学が必要なら、私はいまだに新聞配達をしていただろう」というジョークをとばしている。

 実際、私の35年以上におよぶ投資人生(バフェットの半分ほどしかないが・・・)においても、高等数学が必要な場面に遭遇したことが無い。

 一時<金融工学>なるものが流行って、ディーラーや経済学者がやたら難解な数式を振り回して暴れたが、投資ではほとんど成功できなかった・・・・ノーベル賞経済学者を集結させたLTCMは、金融業界を揺るがすような破た
んをしている。

 バフェットが鋭く指摘するのは、「目の前に2メートルの柵があれば、それをよじ登ろうとせずに、周りに30センチの柵が無いか探すべきだ」ということである。私は、同じことを「鼻からうどんを食べる必要は無い」と言っている。

 難しい話をされると、世の中の人々は「何かすごいことを言っているんだ」と思いがちだが、真実・真理とは極めて単純であるはずだ。

 そして、投資の世界では(よく探せば)30センチの柵が見つからないことはまずない。だから、足し算、引き算、掛け算、割り算の四つができれば、高等数学など知らなくても、バフェットのような偉大な投資家になれるのである。


 ただし、一つだけ欠かせない素養がある。それは「確率」の概念である。
 もちろん、数式としては前記の四つだけで十分である。

 しかし「確率」というものは、人間の直感に反するので、ほとんどの人が間違って理解している。

 したがって「確率」を正確に理解できれば、直感で(間違った理解で)取引をしている投資家をしり目に大成功できる。


 バフェットは、いわゆる株式(企業)への投資でも「正しい確率」の概念によって、大きな成功を収めているが、見過ごされがちなのは、保険ビジネスでの確率の活用である。

 バフェット率いるバークシャー・ハサウェイは、投資会社と思われがちだが、米国でバークシャーの証券分析を担当するのは「保険会社」を専門とするアナリストである。つまり、バークシャーは保険ビジネスが主要事業なのだ。

 GEICOのように一般に自動車保険を販売するビジネスの規模もそれなりに大きいが、基盤となるのはアジット・ジャイン率いる損害保険ビジネスであり、その中でも「再保険」が高い収益を上げている。

 保険とは要するに「逆ギャンブル」である。つまり、「当たらなければ儲かる」仕組みだ。だから、<どのくらいの確率で当たって、その時にどのくらいの損が出て、それが(確率的に)払い込まれる保険料と見合うのか>を見定めるのが、損益の分かれ目だ。

 バフェットが、スカウトしたアジット・ジャインは、この「確率」のセンスが抜群で、他社がしり込みするような保険を「(実際のリスクよりも)はるかに高い保険料」で引き受けて多額の利益を得た。

 直感的には確率が高くてリスクが大きく見える保険も、きちんと確率的に分析すれば本当のリスクは少ないことを理解しているからできる技である。


 株式投資では「当たればもうかる」のだから、保険よりももっとわかりやすい。

 バフェットが「他人がパニックに陥ってろうばい売りをしているとき」に買い向かうことができるのも、正しい確率をきちんと理解しているからである。


 ニュートン4月号では、この確率とそれに深く関係する統計について、極めてわかりやすく明瞭にまとめている。


(大原 浩)


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書評:サイロ・エフェクト 高度専門化社会の罠



書評:サイロ・エフェクト 高度専門化社会の罠
 ジリアン・テット著、文芸春秋
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●タコツボ・シンドローム

 サイロ・エフェクトというのは日本人にとってはいイメージしにくい言葉だと思うので、「負の側面」を強調した「タコツボ・シンドローム」という私の造語に置き換えて話をする。

 例えば、村人が50人の村の村長は、なんでもやるし、ありとあらゆる人々と関わる。また村人も、畑仕事と鍛冶屋や機織り業を兼ねるのが普通だから、極端な専門化の弊害である「タコツボ・シンドローム」とは無縁といえよう。

 しかし、1000万人以上が暮らす東京や1億人以上の人口を抱える日本を効率よく機能させるには「専門化」が不可欠であることは言うまでも無い。

 昼間に畑仕事をして、夕方鍬を担いで戻ってから患者を診察する医師に、心臓のバイパス手術や脳腫瘍摘出手術を依頼したくないし、コンビニ店長と兼任の弁護士に、殺人罪の濡れ衣を着せられた自分の弁護を頼むのは不安である。

 しかし、高度の専門化が数々の問題の原因となっていることも確かである。

 例えば、患者が病院を訪ねるときに、自分の病気は◎◎で、●◎科の医師が担当すべきだということが分かっているだろうか?咳が止まらないとか、ひどい頭痛がするとかいう「症状」で自分が健康なのか病気なのか判断する。

 しかし、病院の看板をいくら眺めても、患者にとって最も便利な指針である「症状」には一言も触れていない。

 本書に登場する、全米でも有数の大病院であるクリーブランド・クリニックでは、紆余曲折がありながらも、の大胆な分類法を基に大改革を行って大成功している。

 その他にも、ソニー、UBS銀行、ニューヨーク市庁などのケースを取り上げ、タコツボがどれほどの弊害をもたらし、それを除去することがどれほど意義深いことであるのかを述べている。

 また、アップルやフェイスブックがどのように「タコツボ・シンドローム」を排除するための努力を行ってきたかも解説されている。

 そして、最後には「ブルーマウンテン」というヘッジ・ファンドが、タコツボ・シンドロームにかかった企業や市場を相手に大儲けをした話が述べられている。


 そもそも、投資の成功者は大概の場合、この「タコツボ・シンドローム」を上手に使っており、投資の神様、ウォーレン・バフェットも例外では無い。

 市場は決して合理的では無く、市場がゆがむからこそ投資家は儲けることができるのだが、その歪みの原因は、多くの場合、この「タコツボ・シンドローム」に起因する。


●固定給、人事事異動、同期の絆「タコツボ・シンドローム」を治療し、創造性を高める

 何か新しいアイディアを創造させるには「成功報酬システム」が効果的なように思える。確かに、個々人の意欲を高めるインセンティブとして有用なのは間違いない。

 しかし、個人に有用であっても全体としては組織にマイナスになる部分が多いのが「成功報酬」なのである。

 「タコツボ・シンドローム」の最大の原因がこの「成功報酬」にあるといっても良い。私自身も、リクルートやクレディ・リヨネ銀行で経験したのだが、成功報酬瀬的側面を強めると、他の部門が強力なライバルとなり、組織内部の協力体制がガタガタになる。

 9.11事件の前、CIAに有力なアルカイダの情報が入っていたのに、FBIや地元警察に縄張り意識から円滑な提供を行わずに事件を防げなかったことは後になって大いに非難された。

 このような縄張り争いは組織の中で日常茶飯事だが、自分の給与が所属する部門や自分自身の仕事の「成果」に影響されるとなると、重要な情報をただで他人に提供するのはばかばかしいということで、自分のデスクの引き出しにしまいこむことになる。

 「組織全部が仲間だ」という意識を持たせるには、工夫がいる。

 その一つが「入社前研修」である。新しい環境に入ったばかりの真っ白な時期に、いわゆる「同じ釜の飯を食った」仲間は、その後別々の部署に配属されても、強いきずなで結ばれて連絡を取り合いタコツボ化を緩和する。

 高校や大學の同窓は、さらに組織を飛び越えてタコツボ化を阻止する。

 日本では、仕事を専門化せず、3年程度で人事異動を行ってきた。これこそがタコツボ化を防ぐ最強の方法である。

 欧米のように、個別の仕事と人材が密接につながっていると、部門の改廃も簡単では無い。部門が無くなったらリストラされざるを得ない従業員は、その部門が会社にとって無用の長物であっても改革に頑強に抵抗する。

 逆にトヨタ自動車のように、部門を廃止してもその人員を他部門で吸収する終身雇用制の会社では、改革がスムーズに行える。人事ローテーションで色々な職種を経験させるという文化がさらにこれを後押しする。

 入社前研修、人事ローテーション、終身雇用はコストがかかるので、短期的には一人の人間に同じ仕事をさせた方が効率的なように見える。そして、日本企業の多くも、この目先で稼ぐやり方にシフトしつつある。

 しかし、入社前研修、人事ローテーション、終身雇用は長期的な企業の繁栄にとって、極めて効果的であり、現在の日本企業がなかなか飛躍できないのも、このような長期的視野をないがしろにして、短期的もうけを追求してきたからとも言える。


(大原 浩)


★2018年4月に大蔵省(財務省)OBの有地浩氏と「人間経済科学研究所」
(JKK)を設立しました。HPは<https://j-kk.org/>です。
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●宇宙を支配する四つの力とエネルギー

 宇宙に存在する力は四つに分類される。

1)強い力
2)弱い力
3)重力
4)電磁気力
である。

 いわゆるビッグ・バンの時点ではこの四つの力はまだ分離していなかったのだが、その後分離した。他の三つの力に比べて重力だけが極端に弱いことが謎の一つで「実は重力はこの宇宙の外の他の宇宙に漏れている」として、多元宇宙論を補強する証拠ともいわれる。

 重力の力の弱さは、小さな磁石一つで地球の重力すべてを受けている釘を軽々と持ち上げることができることからすぐにわかる。

 日常生活では電気と磁気は異なったものとして扱われているが、アインシュタインが「時間と空間は同じもの」と看破して「時空」と名付けたように、電気と磁力は同じものであり「電磁気力」と呼ぶわけである。

 電磁力は我々の生活に欠かせず、石油・石炭・天然ガスなどの化石エネルギーは植物の光合成や動物の代謝に関連して生成された燃料だが、実のところ「電磁気力」によって生み出されているのだ。

 また、ほとんどの自然エネルギーは、太陽の光エネルギーや熱エネルギーの活用だが、これも太陽から降り注ぐ「電磁波」のエネルギーである。また、太陽のエネルギーそのものは「核融合反応」によるものであり、「強い力」による。

 地熱は、地球内部で生じている放射性元素崩壊の弱い力を、潮汐発電は引力を活用している。

 実は、「電磁気力」をはじめとする四つの力は、エネルギーを通じて我々の生活に深くかかわっているのだ。日常のエネルギー(分子と化学)のほとんどが、この電磁気力によって生まれているといえる。


●人体にも電流が流れている

 つなぎ合わせた死体に雷の電流を流して蘇生させる「フランケンシュタイン」(メアリー・シェリー:1918年)は有名だが、イタリアの解剖学者ガルバーニが1771年に行った実験に触発されたものといわれる。
 この実験ではカエルの脚に金属片が触れると痙攣を起こすことが確認され、1791年にこの脚を収縮する力を動物電気と名付けた。後に同じくイタリアの物理学者アレッサンドロ・ボルタにっよって「実際には2種類の金属間に接触電圧が生じたことによる痙攣」であったことが明確化された。

 現在では、人体にも200マイクロアンペアほどの微弱な「生体電流」が流れていることが分かっている。

 心臓にも1マイクロアンペア程度の極めて弱い電流が流れており、この電流が乱れたときに、電気ショックで元に戻すのがAEDである。

 MRIは、人体に磁気を当て画像を撮影する装置であり、体内の水素電子が持つ弱い磁気を、強力な磁場で揺さぶり、原子の状態を画像にする装置である。

 電気を発生させる生物として有名なのが電気ウナギだが、興奮すると「発電器官」の細胞膜の性質が変わり、ナトリウムイオンが細胞内に入りやすくなることによって、内側の細胞の電圧が高くなる。ただし、最大600ボルトで1ミリ秒(1秒の1000分の一)しか発電できない・・・・。

 ただ、電気は2次エネルギーであり、生体の化学反応の結果電気が流れていると考えるのが自然である。

 生体の活動を知るうえで「発生した電気」について調べる(脳波計、心電図)ことは有意義だが、電気が生体を動かすと考えるのは因果関係が逆である。


(大原 浩)


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