書評:人類は絶滅を逃れられるのか



書評:人類は絶滅を逃れられるのか 知の最前線が解き明かす「明日の世界」
スティーヴン・ビンカー、マルコム・グラッドウェル、マット・リドレー他箸
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 「日本人はディベートが下手だ」と、非難がましく言うマスメディアを中心とした人々がいますが、ディベートが得意だからと言って自慢するようなことではありません。

 例えて言えば、ディベートは商品の包み紙、すなわち「見た目」です。表面的な印象を重視し中身に乏しい欧米人は、確かにディベートという包装紙で自分を飾る必要があるでしょう。

 しかし、日本を筆頭とする東洋文化圏では中身を重視(特に精神的なもの、お歳暮などの贈答品は別・・・)するため、見た目にそれほど重きを置きません。「自分がこれだけすごいんだ(正しいんだ)」という主張をするための技術を磨くことよりも、(自分の)中身を高めることに注力します。

 一瞬の勝ち負けは別にして、長い目で見てどちらがあるべき戦略なのかは<ディベート>するまでも無いでしょう・・・


 本書は、「赤の女王」や「繁栄」等の名著を執筆したマット・リドレーの名前があったため、思わず手に取ったのですが、内容はかなり上滑りです。

 訳者前書きにもあるように、ディベート会場は大いに盛り上がったようですが、それはプロレスの「金網デスマッチ」に観客が熱狂するのと一緒で、<その場の興奮>にしかすぎません。活字にするとほとんど内容がありません…

 ディベートでは、よく言葉尻をとらえた揚げ足取りが行われますが、本書でも「明るい未来」の肯定派に対する、否定派の執拗な揚げ足取りが散見されます。

 まるで、日本の明るい未来を実現すべく懸命に努力している政治家に対して、日本の将来を真っ黒にしたい(外国勢力や共産主義勢力に日本を支配させたい)政治家やマスコミが懸命に足を引っ張ろうとしている姿を見ているようです。


 なお、「人類滅亡」については、紀元前から色々な説が流されてきましたが、ミレニアム(1000年紀)、1997年7の月、2000年問題、マヤ歴の終わり(2012年)をはじめとする無数の滅亡説のうち、どれか一つでも当たっていたら、現在我々は存在していないということを直視するべきです。

 しかしなぜ、こうも繰り返し「人類滅亡説」が出てくるのか?
 それは、進化的に人間がネガティブな情報に過敏に反応するよう生まれついているからです。

 例えば古代において、Aというリスクを顧みない<イケイケどんどん>な人と、神経過敏で心配性なBという人とを比べれば、どちらが長く生き残り、より多くの子孫を残すであろうかは明白です。

 人類が生きてきたほとんどの時代は、常に生命の危険にさらされていたので、ネガティブな情報に過敏に反応する個体の方が生き残りやすいのが道理です。

 したがって「人類滅亡」というのはキリスト教を含めた大概の宗教の殺し文句で、<信じなさい、あなただけは救われる>という言葉で多くの信者を獲得してきました。

 「地球温暖化教」もその一つで、「信じなさい、そうすれば(あなたも含めた)人類は滅亡から救われる」という言葉だけで、ほとんど何の科学的証明もせずに、世界中の多くの人々を洗脳してきたのは驚くべきことです。


 ただ、このディベートの聴衆の3000人のうちの多くの人々が「人類滅亡説」を含む人類の未来に対して健全な意見を持っているのが救いです。


(大原浩)


【大原浩の書籍】

★夕刊フジ(産経新聞社)木曜版で連載中の「最強!!バフェット流投資術」は、7月で基礎編が終了し、現在応用編を連載中です。

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書評:国富論 国の豊かさの本質と原因についての研究(上)



書評:国富論 国の豊かさの本質と原因についての研究(上)
アダム・スミス 日本経済新聞出版社
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 人間とサルの違いは何か?
 世界のあらゆる分野の研究者の頭を悩ましてきた問題であり、私が子供の頃から興味を抱き、いまだに明確な解答を得ることができずにいるテーマでもあります。

 サルをはじめとする多くの動物は原始的な道具(例えば木の枝)を使用しますし、イルカはコミユ二ケーションに言語(音波)らしきものを使用することはよく知られています。また、脳のサイズも、人間だけが特別大きいというわけでもありません。

 コイン(トークン)も、サルに教えれば、すぐに使い方を覚え、食べ物と交換したり「売・買春」(オスがメスにコインと交換に交尾を求め、メスがそれに応じる)も活発に行われます。売春が世界最古の職業であるとよく言われますが、本当かもしれません・・・。

 しかし、マット・リドレーがその著書「繁栄」で指摘するように、人間の行う交換は(換算の必要が無い)単純な等価交換だけではありません。
 例えば、サル同士が「自分の背中をかいてもらったら相手の背中をかく」という交換をすることは珍しくありませんが、リンゴ一個を渡すかわりに背中を30分かいてもらうなどという取引をするサルを見たことはありません。
 このような価値の換算が必要な高度な交換は人間特有の行動であると言ってもよいでしょう。このような価値の換算を行うのは、極めて高度な知的活動であり、人間固有の行為なのです。

 また、人間の行う交換には「交換の(実質的)先延ばし」というさらに高度な行為が含まれます。前述の「換算による交換」においても、現代においては「貨幣」がその仲介役として大きな役割を果たしますが、「交換の先延ばし」においては、さらに貨幣が重要なものとして位置づけられます。

 例えば、魚10匹と山菜一かごを交換したとしましょう。どちらもすぐに消費しないと腐ってしまいますから、交換はそれで終わりです。ところが、塩と山菜を交換した場合、塩は保存可能です。そこで塩を受け取った人々は、それを自分で消費するのではなく、機会をうかがって、その塩をさらに別なものに交換することができます。これが「交換の先延ばし」ということです。

 ちなみに、古代ローマにおいて(古代世界においてはほとんどの地域で)、塩が貴重なものであったため、ローマ兵の給与は塩で支払われていました。つまり塩が通貨の役割を果たしていたのです。また、サラリーマンの語源(大正時代から使われるようになったといわれる)はラテン語で塩を意味する「sal」だとされていて、これは英語の「salt」の語源でもあります。


 本書は、古代ローマからはるか時代が下った1776年に出版されました。
 当時の通貨の中心は銀貨、金貨、それに銅貨です。記述の内容から受ける印象では、銀貨が流通(価値尺度)の中心であったようです。しかし、紙幣はもちろんのこと、銀行の当座貸し越し機能、金融機関などによる信用創造(融通手形など好ましく無いものも含めて・・・)など、現代の通貨・金融取引の基礎となるシステムはすべてそろっていました。

 スミスは、それらの貨幣の根源的価値を基本的に「労働を購入できる力」と定義しています(2次的には穀物などの生活必需品を購入できる力等)。

 まだ前半を読んだだけですが、スミスの鋭い観察眼や理論体系の構築力には恐れ入ります。今から250年前にニコラウス・コペルニクスの「地動説」やニュートン力学に匹敵するような偉大な理論が発表されていたのです。

 しかし実は、コペルニクスの地動説は、紀元前に活躍したギリシャのアリスタルコスの地動説の再発見でしかありません。彼以降、アリストテレスやプトレマイオスの説が支配的だったのは事実ですが、特に中世ヨーロッパを現在の北朝鮮並みの状態にし、魔女裁判などで無実の人々を生きたまま焼き殺した残虐極まりないキリスト教(カトリック)が世の中の科学や思想を退化させたために失われた偉大な知識が地動説だったのです。

 経済学においても、スミス以降「マルクス経済学」や「近代経済学」なるものが生まれましたが、社会や経済に果たした役割は中世ヨーロッパのキリスト教と大きく違うとは言えません(マルクス経済学の破たんはごく一部の狂信者以外のだれの目にも明らかですが・・・)。

 したがって、本書を読んだとき、まさにアリスタルコスの地動説を再発見したような衝撃を受けました。現代のわれわれが直面しているほとんどの金融・経済問題の根源に対する深く鋭い考察が行われています。

 唯一欠けているのは、ドラッカーが鋭く指摘した「知識」および「知識社会」の問題です。
 スミスが生きた時代には、「知識の経済価値」は微々たるものであったので致し方ないでしょう(ただし、生産性の向上における「知識」の重要性には気付いています)。

 ニュートン力学は、相対性理論や量子論などによってさらに偉大な発展を遂げましたが、「アダム・スミス理論」も、ドラッカーなどの優れた「観察者」の研究成果を付け加えながら(社会の進化と共に)益々発展するでしょう。


 なお、冒頭の「人間とサルの違い」というテーマに関して、本書を読んで浮かんだインスピレーションが「マネサピエンス」(カネサピエンス)という言葉です。読者の創造通り、ホモサピエンスとマネーやカネという言葉を合わせた、私の造語です。

 しかし、人間とサルの違いが結局「マネー」(貨幣)を使うか使わないかというところにあるのだとしたら、人類を「マネサピエンス」と呼ぶのが一番合理的だと思います。

 人類がマネーを主な媒介手段とする「交換」によって、驚異的な発展を遂げてきたことについては、前述の「繁栄」をぜひ読んでいただきたいと思います。


 そして、現在注目されているのが(少なくともこれまでの基準では)価値の無い通貨です。

 1971年に「ニクソンショック」が起こるまでは、ドル紙幣と金との交換はいつでも(一定の換算率で)行えました。つまり、少なくともドルについては、紙幣が単なる紙切れではなく、交換価値を持つ金に準じた商品であったのです。

 ニクソンショック以降、世界各国の政府は交換価値を持たない紙幣を印刷し続け、ドルを中心としたマネー(紙幣)は世界中にあふれています。この砂上の楼閣は半世紀ほど続いていますが、今後どのような展開が待ち受けているのかわかりません。

 「交換価値」という呪縛を離れたマネーを獲得した人類がますます発展するのか、それとも「交換価値」の無い紙幣は単なる紙切れにすぎず、リーマンショック以上の大混乱を引き起こして、紙幣は紙くずになるのか、現時点では全く予想ができません。

 さらに、紙幣には少なくとも「国家の保証」がつきますが、現在脚光を浴びているビットコインをはじめとする仮想通貨にはそれさえありません。砂上の楼閣の上に、さらに砂上の楼閣の屋上屋を建てたようなものです。例えば、古代において貝殻や石貨が通貨として流通した時期・場所がありましたが、現在貝殻や石貨では何も買えません・・・。

 通貨(マネー)は本書でも重要なテーマになっていますが、あくまで「交換価値」を持つのが通貨の本質です。「金本位制」などと言うと、苔むした感じがしますが、交換価値を持たない通貨が何らかの意味を持つとは思えません。別に金と交換する必要はありませんが、なんらかの「購買力」を保証することが、通貨(マネー)の本質であるはずです。

 仮想通貨などの仕組みが今後も機能するのかどうかを考える前に、本書を一読することを勧めます。


(大原浩)


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書評:ブロックチェーンの未来



書評:ブロックチェーンの未来 金融・産業・社会はどう変わるのか
翁百合他編著、 日本経済新聞出版社
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 多くの分野にわたる多数の執筆者が小論文形式のコメントを執筆し、それを編集したスタイルです。

 少しまとまりが無い感じがしますが、ブロックチェーンの未来とその産業・社会に与える影響について、一本筋道の通った論述を行うのは(少なくとも現在においては)困難な作業ですから、百花繚乱形式で、色々な立場からの意見を集約した本書の価値はかなりあります。

 世間では、ブロックチェーンの応用の一つの形がビット・コインなどの仮想通貨であると認識されているようですが、歴史をたどれば、ビットコインが先に生まれ急速に発展することによって、その中核であるブロックチェーン技術が他の仮想通貨にも採用されたのです。そして、世の中の注目を浴びるようになったというのが真相です。

 ビットコイン(ブロックチェーン)の生みの親とされるサトシ・ナカモトという人物がいったい誰なのかわからないということ自体、相当胡散臭い話ですが、彼自身あるいはその周辺の信奉者にも共産主義的妄想を感じます。

 共産主義は、ある時代、世界中の若者を中心とした多数の人々を巻き込み暴力(革命)に走らせました。

 その結果生まれたのが、ある程度発展はしたけれども(資本主義的政策のおかげで…)、暴力と恐怖によって支配されるチャイナやロシア(旧ソ連)のような共産主義独裁国家やアフリカなどでよくみられる、貧しい上に社会が混乱している独裁国家です。
 カンボジアのポルポト政権下で行われた大虐殺は有名ですが、毛沢東やスターリンが行った、ヒットラーをはるかに上回る大虐殺は、いまだに真剣に議論されることがあまりありません。

 英国の宰相チャーチルは「20歳までに共産主義の影響を受けない若者は情熱が足りない。20歳を過ぎて共産主義を信奉している人間は知性が足りない」と看破していますが、共産主義者が唱えることは確かに立派です。しかし、それはあくまで「口先の話」です。

 例えば「平等に分けよう」という理念に反対する人はあまりいないでしょう。しかし、実際の共産主義国家(あるいは共産党)が行っていることは、共産党員(さらには党幹部)がまず分け前の大部分をかっさらい、わずかな残りを大多数の国民に施し、その分配が「平等」だと称しているわけです。ですから、国民の不満を恐れざるを得ず、暴力と恐怖による支配が必要不可欠なのです。

 共産主義国家のこのような悲惨な現実を生み出しているのは「共産主義には(口先だけにしても…平等に)富を分配する機能はあっても、富を生み出す機能が無い」ということが最大の原因といえるでしょう。

 新たな富を生み出すことができないので、今ある物の分捕り合戦となり、共産党員などの権力者が一般国民を抑圧するという図式になるわけです。

 ブロックチェーン(オープン型)も、管理者=中央権力が存在しない民主的(草の根)組織であるということが喧伝されますが、共産主義同様「立派な話」には十分注意しなければなりません。

 まず、管理者や国家・警察などの権力は大概悪者にされますが、彼らが(少なくとも現在までは)、社会的に重要な役割を果たしてきたことを忘れてはなりません。

 まず、ソマリアをはじめとするアフリカのいくつかの国々を考えてみましょう。これらの国々では、子供が生まれてから5歳まで生き延びる確率は極めて低いといわれます。6歳ともなれば、少年兵としてマシンガンで多くの人々を撃ち殺すようになります。

 また、米国の西部開拓時代には、保安官はいても大した権力も無く、いわゆる悪党の天国でした。

 そして、現代の日本。世界的に治安が良いことで有名なこの国でも「警察を廃止しろ」という声は聞いたことがありません。特に、夜道を歩いているとき、後ろからキラリと光るものを持って大男が追いかけてきたとき「警察は無駄だ」と思う人はいないでしょう。

 もっとも、「憲法9条教」の狂信者は、「軍隊など無くても一緒に酒を組み交わせば平和的に解決できる」などといいますが、世界中のどの紛争地帯でも彼らの姿を見かけたことはありません。もちろん共産主義同様「口先だけ」の話です。

 同じようにブロックチェーン(オープン型)も、管理者がいない無法地帯です。ビットコイン(仮想通貨)もアングラマネーの流通(洗浄)によく使われますが、管理者のいない無法地帯を制御するのは決して簡単でありません。

 確かに、インターネットそのものは自治がそれなりに成り立っているようですが、それでも違法行為は絶えません。それが現在でもインターネット上の資金決済においてクレジットカードや電子マネーなどのような伝統的(中央集権型)決済が主流である理由です。

 また、ブロックチェーンは後から改ざんできない工夫がなされているため、かなり硬直的な設計になっています。したがって、スタートした後、様々な問題が生まれても、改良することが困難です。つまり、一度設計すると勝手に増殖して誰もコントロールできない仕組みなのです。

 建前としては、参加者の合意によって民主的に解決するということになっていますが、これまでのハード・フォークやソフト・フォークでの混乱や、これらのシステムが、ソマリアなどの無法地帯や、チャイナやロシアからもアクセスすることができることを考えれば、「理想主義的草の根運動」で、解決できる手法が今後生まれるとも思えません。

 要するに政府の無い民主的理想世界は、あくまでおとぎ話の中だけであって、本当の「無政府状態」は、邪悪な人間が闊歩する世界であるということです。

 もちろん帳簿技術としてのブロックチェーンは革新的であると思います。
 15世紀にヴェネチア商人によって体系化された<複式式簿記>以来の大発明かもしれません(ちなみに世界中の企業で複式簿記が採用されているが、日本の地方公共団体は最近やっと複式簿記に切り替えたばかりだし、日本国に至ってはいまだに単式簿記(いわゆるお小遣い帳)を使っている)。

 したがって、無法地帯になるであろうオープン型のブロックチェーンではなく、中央管理者が存在する「クローズ型」のブロックチェーンがこれから大きく発展していくのではないでしょうか?


(大原浩)


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ドラッカー18の教え 第9回



産業新潮 http://homepage2.nifty.com/sancho/
12月号連載記事


■責任を負わなければ権限は無い。危機においてこそリーダーの真価が問われる


●古代では暴力と恐怖による支配が当たり前だった


 人間社会が始まった時から、常に権力者は存在しました。秦の始皇帝、アレクサンダー大王、カエサル(シーザー)、ナポレオン等々数限りありません。彼らはほぼ例外なく、本来外敵から自国を守るはずの軍隊を国民に向け、「暴力とそれに伴う恐怖」で人々を支配しました。今から考えればひどい話ですが、古代社会から近代の初期に至るまでは「法の支配」などという考えも確立されず、権力者が権力と恐怖で人民を操るのはごく当たり前のことだったのです。

 しかし、近代に入ってからは、すくなくとも先進国では、「法の支配」が優勢となります。どのような権力者でも、まったく人民を無視した政治を行うことは不可能になりました。これには、グーテンベルグ以来の活版印刷技術の普及も大いに貢献しました。それまでは一人が1年に一冊しか作成できない(そのため現在の価値でいえば一冊数百万円以上した)写本でしか知識を得ることができなかった(実際には購入できず知識を得ることはできませんでした…)人民が、数百部・数千部単位で一度に印刷できる印刷技術を手に入れたのです。まさに「情報革命」です。

 知識を持たない人民であれば恐怖と暴力で支配するのはたやすいでしょうが、知恵をつけた人民は権力者にとって厄介な存在で、彼らの意見もある程度取り入れなければ、政治がうまく運ばなくなります。


●知識社会では暴力と恐怖による支配は通用しない

 ただ、西洋を中心とした先進国では「法の支配が」確立しているにもかかわらず、発展途上国や後進国では相変わらず暴力と恐怖による支配が圧倒的に優勢です。特に共産主義国家のほとんどが恐怖と暴力による支配を基本としています。
 近代の三大虐殺王は第1位・毛沢東、第2位・スターリン、第3位・ヒットラー(虐殺した人間の多い順)ですが、このうち二人が共産主義者であり、ヒットラーも「国家社会主義」を標榜していました。

 私は「アラブの春」は大失敗であったと思います。西洋的基準で言えば「民主主義は至高のもの」ですが、民主主義は社会的基盤などの条件がそろわなければ、むしろ害悪となりえると考えています。

 その意味で、今でもチャイナなどの発展途上国や後進国が暴力と恐怖で支配されているのは、歴史的必然です。

 しかし、恐怖と暴力で支配されている国が、経済的な部分において先進国となることはありえません。それは次のたとえ話でよくわかると思います。

 王様の壮大な陵墓を建設するために人民が集められます。彼らは心の中でどのように考えていても、監督官の鞭におびえながら、過酷な環境な中で重い石を運ぶ重労働を行うでしょう。

 それに対して、現代の最先端のバイオ研究所をイメージしてください。豊富な知識と高い教養を備えた研究員の周りを、マシンガンを持った監督官が取り囲んだ場合、仕事の効率は上がるでしょうか?むしろ研究の邪魔になって、出るはずの成果も出なくなるはずです。あるいは、創造性を要求される広告グラフィックやコピーの制作現場でも一緒です。

 チャイナなどでは、海外に留学してそのまま研究を続けるチャイニーズに対して「本土の家族の安全は保障できないよ…」などという脅しをかけて帰国させるようですが、そのような脅迫行為も長期的には無意味でしょう。


 続きは「産業新潮」
 http://sangyoshincho.world.coocan.jp/
12月号をご参照ください。


(大原浩)


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書評:会社四季報 業界地図 2018年版

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会社四季報 業界地図 2018年版
東洋経済新報社
 http://amzn.to/2iUJNLR


 そつなく、非常にきれいにまとめられた本です。

 見開き2ページで(例外もある)、各業界の概要がすっと頭に入りますし、会社四季報がベースになっているので、個別企業の解説が必要最小限の内容に限定されていますが。非常にわかりやすいです。

 しかも、他の出版社から発行されている「業界地図」と違って余分な付録が無いところも好感が持てます。職人技に支えられた「実用美」さえ感じさせます。

 ただ、企業や業界に対しての「切り込み」はあまりありません。しかし、このようなタイプの本にはむしろ必要ありません。一種の「辞典」、「百科事典」ですから、必要なことが掲載され、検索しやすく、短時間で概要が把握できれば良いのです。


<161>リサイクル・中古業界の動向は私も注目しています。

 ブックオフが世間にデビューした頃は、<個人から仕入れて個人に売る>という高収益モデルや、<マニュアル化した値付け方法>などに感銘を受けましたが、今では中古市場も拡大とともに近代化されて、それらがごく普通の手法になりました。

 逆に現在では、Eコマースの発達によって<個人から仕入れて個人に売る>ビジネスモデルが、厳しい試練にさらされています。いわゆる<CtoC>がネット上で活況になれば、個人でも中古品の取り扱いができますから、中古品取り扱いチェーンの独占は崩れます。

 もちろん、仲介者や調整者としての業者の役割はある程度残るでしょうが、個人間取引はほとんど費用がかかりませんから、売買によって大きな利ザヤを稼ぐのは難しくなるでしょう。

 ただ、その中でもいくつかの例外はあると思います。例えば「まんだらけ」が扱うようなコレクターズアイテムは、仕入れの機会が限られます。コレクターというのは、収集した商品に非常に執着する(だからこそコレクターであるわけです・・・)ので、なかなか集めたアイテムを売りません。まとまって売られるのは、亡くなったときが大半です。遺族にしたら、膨大な収集品をいちいちネットで売るのは大変ですし、価値もわかりませんから、「まんだらけ」のようなブランド力のある業者が、まとめて査定して引き取ってくれるのはありがたいことです。

 また「コメ兵」は、ネットでの個人間売買において「鑑定」するサービスを始めましたが、高級品については、プロフェッショナルの関与を望む顧客が一定数はいると思います。

 まだ混沌とはしていますが、非常に興味を惹かれる業界です。


(大原浩)


【大原浩の書籍】

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書評:道徳感情論(第4部〜7部)



道徳感情論(第4部〜7部)
アダム・スミス 箸、村井章子+北川知子訳、日経BP社
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 本書を読了して感じたのは、あくまでアダム・スミスは、ギリシャのアリストテレスやエピクロス、ローマのキケロ等に連なる(道徳)哲学者であるということです。

 彼は本書の中で、共感=(社会への)同調の重要性を説いています。日本的な表現で言えば「世間様」「お天道様」に恥じない行為こそが、各個人に求められるのだという主張を繰替えしているわけです。

 自分の本能を適切にコントロールすることが、個々人の「徳」を高めるのに極めて重要であり、それができない本能が優勢な人間は、「下劣な下司野郎」だというわけです。

 スミスの定義によれば、銀行・証券を含む金融機関のほとんどの人間は下劣な下司野郎ですし、金儲けに血眼になっている投資家の大半も同様です。

 しかし、スミスが、利己心を他の多くの偽善的哲学者と違って否定はしていないのも事実です。「人間には血が通っていて、良いところも悪いところもある」というのが、スミスの主張の根底にあります。

 ドラッカーは非常に優れた観察者で、その優れた観察眼で、コンサルタントとして実際の企業の仕事の現場を詳細に観察しました。そして「マネジメント」をはじめとする多くの分野で素晴らしい経営理論を生み出しました。

 本書においても、スミスの的確な(内面も含めた)人間観察の鋭さと、その複雑な心理の確かな体系化には驚かされます。しかも、机上の空論を論じるのではなく、目の前にいる人間の心の動きをしっかりと捉えることによってその行動原理を解き明かします。

 「国富論」におけるスミスの「利己心」に関する記述も、この根本的理解が無ければ全く理解ができないはずであり、それを怠ってさもわかったような顔をしている経済学者はもちろん偽物です。

 そもそも、本書の冒頭は「人間というものをどれほど利己的とみなすとしても、なおその生まれ持った性質の中には他の人のことを心にかけずにはいられないなんらかの働きがあり・・・」という一文から始まっています。

 <利己心の塊=金で動く>人間が経済(市場)を動かすなどという妄想を抱くのは、その理論を構築する経済学者たちが、まさにそのように公徳心の無い<下劣な利己的野郎>だかではないかと思います。

 もちろん、私自身も下劣な利己的野郎である、銀行員・証券マンや投資家を見てきましたが、彼らが必ずしも成功していないというのも事実です。

 特に投資において、利己的野郎の成功確率は極めて低いのが現実です。
 私は「投資のアドバイスをお願いします」といわれると「まず禅寺で修行してきてください」と答えます。

 自分自身の心(利己心)をきちんと制御できない投資家が成功するはずがありません。もちろん、投資をするということそのものが利己心に基づいているわけですが、その利己心を抑え理性で判断するべきなのです。そうしなければ、他人や市場ではなく、自分の欲望によって地獄に突き落とされます。

 ところが、ほとんどの投資家は本能のままに投資を行い、いつも損をしています。

 バフェットが、世界一の投資家として成功できたのは、投資(企業分析)の技術もさることながら、自分の欲望をコントロールできる強力な自制心があったからです。

 なお、本書には、アマティア・センによる序文が収められていますが、非常に的確な内容です。


(大原浩)


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書評:道徳感情論(第1部〜3部)




道徳感情論(第1部〜3部)
アダム・スミス 箸、村井章子+北川知子訳、日経BP社
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 翻訳ベースで700ページを超える大著なので、2回に分けてコメントを書きます。

 ただ、大著ですが、非常に現代的なこなれた翻訳であるため、読むのに大きなストレスは感じませんでした。むしろスラスラ読めた印象です。

 現在では、アダム・スミスの著書といえば「国富論」の方がはるかに有名ですが、彼が生きていた時代には本書の方が世の中に広まっていました。本書が修正を加えつつ6版まで重ねたのに対して、「国富論」は本書が版を重ねる間に、本書の一部をより詳しく論じる形で、付加的に出版されたにすぎませんでした。

 近代経済学(古い経済学)においては、「合理的経済人」なるものが想定され、個人=個体の利益が最大になる最も効率的な行動をとるとされています。そして、アダム・スミスが国富論で述べる「(神の)見えざる」手が、「人間の利己心」の集合体であると解釈しています。たぶん一般にもそのように考えられているでしょう。

 確かにアダム・スミスが、人間に利己心が存在することを認め自然なこととしているのは事実です。しかし彼が、「<自然>が与えた人間の根源的資質=本能」として考えているのは、(自分に何の利益ももたらさない)復讐心、(他人をうらやむだけの)嫉妬心、(自分に何ももたらさない無償の)他人への感謝など極めて多種多様なものです。

 そもそも、スミスは28歳でグラスゴー大学の「道徳哲学」の教授としてスタートしました。決して経済(学)の専門家ではなく、むしろ「人間(性)の本質」に関して常に考えていた人物だったのです。

 2002年に「行動経済学」の分野でノーベル賞を受賞したダニエル・カーネマンは「心理学者」ですが、経済の本質を理解するためには人間に関して深い洞察力を持つことが必要だという象徴的事例でしょう。

 スミスは、ある意味「人間経済科学」の源流をつくったといえるかもしれません。「道徳感情情論」で述べられている内容は、人間心理を非常に鋭く観察し、かつ系統的に一つの体系として理路整然と述べられています。

 また、極めて重要なのは、人間の心理と行動は<強い社会性>を帯びているということを断言している点です。

 いわゆる「合理的経済人」は、自分(個人=個体)のことだけに基づいて損得を判断します。しかし、スミスが述べる「<自然>が生み出した人間」は、<他人の目>を重要な判断基準にします。

 日本は強烈な「同調(強制)社会」で、少し息苦しい点もありますが、その「同調圧力」が極めて高い文化とモラル(道徳)の根源でもあります。

 もちろん「同調」を求められるのは利己的であることではなく、むしろ利己心は押さえるべきであるという同調圧力が働きます。

 同調を求められるのは「社会全体のためになる行為」であり、その同調によって<社会が構成員全体にとってより良いものになる>というわけです。

 言ってみれば、スミスが主張するのは「(社会にとって)良き行いが強化され、悪しき行いが消滅する」自然淘汰的な仕組みなのです。この考え方はダーウィンの特殊(生物に関する)進化論に大きな影響を与えており、スミスの考え方を一般進化論と呼んでよいでしょう。

 逆に誰かが社会(経済)を設計したと考えるのは創造説(神がこの世をつくった)を中心とした<中央集権的>な考えですが、その中央集権的な考えの極致である一神教(主にキリスト教)について、第3部の後半で触れています。

 無神論者はいまでも西洋社会では差別の対象ですが、無実の人々を生きたまま火あぶりにしたり、身の毛もよだつ拷問にかけた中世キリスト教独裁(暗黒)時代の記憶が生々しい時代であったため、スミスの表現はかなり慎重です。

 しかし、宗教的モラルは、人間が自然に持つ道徳感情を補強する効果を認めつつも、宗教的な狂信がたくさんの虐殺や戦争を引き起こしてきたことを冷徹に指摘しています。

 経済も世の中も、単に利己心の集合体ではなく、他人への思いやりやその他の人間的感情も含めた「(神の)見えざる手」によって動かされる「市場」によって自律的に運営されるのが最良だというのがスミスの主張するところです。

 繰り返しますが、スミスが主張する「(神の)見えざる手」とは、単なる利己心の集合体ではありません。本書で述べられているような、良きも悪しきも含めた、(自然が与えた人間の)「道徳感情」によって自律的にコントロールされるものなのです。


(続く)


(大原浩)




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ドラッカー18の教え 第8回

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産業新潮 http://homepage2.nifty.com/sancho/
11月号連載記事


■人間の手だけを雇うことはできない

●猫の手も借りたい


 「猫の手も借りたい」という慣用句があります。実際に役に立つかどうかは別にして・・・忙しい時には「猫の手」でさえ頼りにしてしまうという意味です。もっとも「猫の手」だけを切り取って持ってきても仕方がありません(少しシュールな表現ですが・・・)。同じように「人手不足」の会社に切り取った人間の手をすらっと並べても何の役にも立ちません。

 猫や人間の手は本体(胴、頭、足など)が一緒になっていてこそ初めて役に立ちます。さらに、少なくとも人間の本体(多分猫もそうではないかと思いますが・・・)には「心」が付いてきます。
 この心がドラッカーのいうところの「ビジネスにおいて最も厄介なもの」ですが、その「ビジネスにおいて最も厄介なもの」である心こそが、「利益を生み出す唯一の源泉」であるのも事実です。なぜなら、どのような最新鋭設備を備えた工場も、豪華絢爛なレストランも、多数の商品を備えた小売店も「心を持った人間」が稼働・運営しなければ絶対に利益を生むことはありません。人間が稼働・運営しない工場や店舗などはただ存在しているだけのガラクタにしかすぎません。

 自動販売機やオートメーション工場はどうなのか?という議論があるかもしれません。しかし、少なくとも現在のところ、自動販売機をどこに設置するのか、どのような商品を販売しどのような販売価格にするのかは人間が決めますし、商品補充も人間が行います。オートメーション工場も、最終的な管理や危機管理などは人間が行います。

 これからAIが、このような「判断」などを行うようになる可能性もありますが、すくなくともそれまでは「心を備えた人間という最も厄介なもの」がビジネス(企業経営)における収益最大化の最大の鍵となります。


●合理的経済人は存在するか?

 経済学においては、「合理的経済人」なる概念が登場し、経済モデルを構築するときなどによく使われますが、実際のところ「経済合理性」だけで行動する人間などこの世に存在するのでしょうか?

 もちろん、「損得」が人間の心や行動に大きな影響を与えることを否定できません。同じ商品であれば、価格の安い方を購入するのが普通ですし、同じ仕事ならば給料が高い方が良いに決まっています。しかし世の中には、一個数千円のデジタル時計ではなく手作業で組み立てた一個数千万円の機械式腕時計を身に付ける人がいます。時を刻む正確さはむしろデジタル時計の方が上かもしれません。あるいは、自宅で飲めば一本数千円のシャンパンを銀座のクラブで数万円・数十万円払って飲む人がいます。また、ボクサーの大部分は、とんかつ屋などでアルバイトしながら世界チャンピオンを目指しますが、実際に世界チャンピオンになれる可能性はほとんどありません。劇団員の多くも、アルバイトをするだけではなく(自分が出演する公演の)、入場券を自腹で購入さえします。

 このようなケースはまだまだいくらでもあげることができます。そのようなたくさんの例を見ると、「人間がどれほど『経済的非合理人』(=心によって動かされる存在)であるかがよくわかります。


(続く)


続きは、産業新潮
http://homepage2.nifty.com/sancho/
11月号をご参照ください。


(大原浩)


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書評:ブロックチェーン入門

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「ブロックチェーン入門」
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 1990年代後半、インターネット・ITバブル華やかりしころの熱狂をご記憶の方も多いと思います。当時は「インターネット・ITと名前がつくベンチャーなら「A4の企画書1枚で数億円が1週間で集まる」などといわれましたが、実際にそのような「熱狂」の時代でした。

 当時の私は、そのようなバブルを冷ややかな目で見ていたのですが、実際2000年代に入ってすぐにITバブルは崩壊し、雨後のタケノコのように生まれていた「ナントカドットコム」というような名前のIT関連企業のほとんどは、今や見る影もありません。

 しかし、私の予想が大きく外れた部分もあります。

 スマホやECなど、「ITやインターネットがたった20年ほどの間に社会のインフラになる」などとは、正直全く予測していませんでした。

 ただ、よく考えると、卓越したテクノロジーがはじめて実用化されてから、20年〜30年ほどで社会に普及するという流れは、少なくともグーテンベルクの印刷技術の登場の頃からありました。

 ドラッカーがよく取り上げるのが、1950年代の大型商用コンピュータの時代から20〜30年経って、パソコンなどによるコンピュータの一般の時代が始まったということです。そして、それから20〜30年経って、インターネット・モバイルの時代に突入したわけです。


 ブロックチェーンも、コンピュータやインターネットに匹敵する革新技術です。

 ただし、今や投機(投資対象)として脚光を浴びているビットコインについては「ねずみ講も一番最初に参加すれば儲かる」としか言いようがありません。

 現在少なくとも600種類の仮想通貨がある現状では、どれが(いずれでもなく新たに登場する仮想通貨かもしれませんが・・・)生き残るかは定かではありません。

 バフェットが好んで取り上げる逸話は「黎明期の米国で少なくとも数百社あった自動車会社は現在3社に集約されている」というものです。自動車産業が発展するのが明らかであったとしても、その数百社の中のどれが生き残るのかはわからなかったので、自動車会社に投資したほとんどの投資家は損をしているということです。


 しかしながら、仮想通貨というものがこれまで当たり前と思われてきた「中央集権型の通貨」をひっくり返す潜在的力を持っているのは確かです。

 先進国で「中央銀行」が設立され、中央銀行が通貨をコントロールするようになったのはここ100年から200年程度のことにしかすぎません。それまでは、いわゆる分散型の通貨システムが主流だったのです(この点については「進化は万能である 人類・テクノロジー・宇宙の未来」マット・リドレーの第15章または私の書評をご参照ください。<通貨の本質>については、拙著「銀行の終焉」(あいであ・らいふ)をお読みください)。

 今後20〜30年で中央銀行が廃れて、中心が無い分散型の<仮想通貨>が主流になるといわれても、現時点では信じがたいことですが、その信じがたいことが次々と起こってきたのがこれまでの歴史です(もっとも、通貨は政府の力の源泉でもありますから、政治的に一筋縄ではいかないと思いますが…)。

 また、仮想通貨のベースとなるブロックチェーン技術のすごさは、本書を読んで改めて痛感しました。

 確かに<不動産登記>や<著作権><医療カルテ>などブロックチェーン技術は至るところに応用できます。特に、現在政府や地方自治体が関わっている煩雑な承認、証明、確認などの作業を、政府を介在せずに分散型で実現できるのは極めて重要な点です。

 インターネットも「情報の独占」に風穴を開け、チャイナなどの(共産主義)独裁国家などでは、政府の悩みの種です。

 しかし、ブロックチェーンには「政府を不要なものにする」すなわち「無政府主義」を無血で実現するだけの破壊力があります。この世で最大の既得権益者=抵抗勢力の政府が、その力をやすやすとブロックチェーンに明け渡すとは思えませんが、私の生きている間に「ブロックチェーン無血革命」が実現する可能性は否定できません・・・


 本書は、その驚嘆すべきブロックチェーンをテクノロジーというよりも<概念・思想・哲学>の面からわかりやすく解説した良書です。


(大原浩)




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書評:進化は万能である 人類・テクノロジー・宇宙の未来




「進化は万能である 人類・テクノロジー・宇宙の未来」
 マット・リドレー 箸、早川書房
 http://amzn.to/2kCSoXU


 まず、読者にとって意外かもしれないのは、ダーウィン(1809年生まれ)はニュートン(1642年生まれ:ユリウス暦)よりも150年以上も後の時代の人間であることです。

 そのため、万有引力の法則を否定する(アインシュタインの相対性理論によって修正が加えられましたが…)人はいなくても、いまだに米国のキリスト教原理主義者は進化論を否定し、学校で「地球は6000年前に創造された」と教えるよう強いプレッシャーをかけています。

 何故進化論が人々になかなか受け入れられないのか?それは(神や人間などの)「意図」や「計画」をすべて否定するからです。

 本書では、生物学的なダーウィンの進化論を「特殊進化論」、アダム・スミスに端を発する(ダーウィンも影響を受けた)社会・経済などすべての事象に関する進化論を「一般進化論」として区別します。

 例えば、一般進化論に従えば、トップダウンによる「指示」「意図」「計画」等はすべて効果が無く無意味です。有名なニューディール政策、(災害からの)復興プラン、ナントカ5か年計画など、数え切れないほどのプロジェクトは、何も効果を生み出していません。

 政府などの政策が成功したように見えるのは、「元々社会・経済・市場が政府の意図する方向に向かっているときだけ」であって、政策によって元々の流れを変えることはできません。

 社会・経済も生物の進化と同様に「適者生存」の原理に従って、「自律的に進化する」のです。したがって、トップダウンによる「意図」や「計画」は必要ありません。

 著者は、この意図や計画を必要としないアメ―バのような「一般進化論」がほとんどの社会現象で有効なことを全16章にわたって、丁寧に証明しています。

 特に注目されるのは、第15章と第16章です。

 まず、第15章は<通貨の進化>というタイトルの中で「中央銀行は不要である」という議論を展開しています。最近の日銀のていたらくを見ていると、心情的に同意する読者も多いかと思いますが、現在の日銀が抱える問題は、一時的な政策の不手際ではありません。

 過去数百年の世界の歴史の中で、中央銀行が経済を救った例は無くても、大きな打撃を与えた例は、星の数ほどあることを豊富な事例で証明しています。

 例えば18世紀に中央銀行が消滅したスコットランドにおいて、銀行の経営内容が格段に向上し、中央銀行が存続したイングランドよりも銀行倒産件数が大幅に減った事例があります。

 スコットランドにおいては「最後の貸し手」がいないことが強く意識されて、融資姿勢が常に慎重になったのに対して、「最後の貸し手が控えている」イングランドでは融資審査基準が甘くなったからです。

 また、1930年代の大恐慌による経済的打撃が最も少なかったのは、当時中央銀行が存在しなかったカナダであることも特筆すべきことです。

 さらに、リーマンショックの原因も「政府による低所得者向け住宅取得の優遇政策」にあるとしています。つまり、政府が銀行に対して「信用力の低い低所得者に融資を行うことを強制した」からだということです。もちろん、銀行がその政府の強制に従ったのは、最後はファニーメイなどの政府機関や中央銀行がしりぬぐいをしてくれるということを見込んでいたからです。

 第16章では、インターネットの発達による<政府の統制から自由な通貨>の話に議論が移ります。

 ビットコインなどの仮想通貨については、その趣旨が理解されないまま加熱しているので、これから投資するような対象ではないと思いますが、仮想通貨を支える<ブロックチェーン>の技術は、コンピュータやインターネットに匹敵する革命的技術だと思います。

 これまでの通貨は、第三者(例えば政府や銀行)による関与が無ければ価値を生みませんでした。1万円札の製造コストは20円ほどですが、20円を1万円にすることができるのは信用力のある)政府や銀行だけであったのです
(通貨の価値の本質については拙著「銀行の終焉」(あいであ・らいふ)をご参照ください)。http://amzn.to/2zc4uun

 ところが、ブロックチェーンの技術があれば、中央集権的な機関(政府・銀行)が無くても、インターネットのように階層の無いフラットなネットワークで、資金のやりとりができるということです。これが実現すれば産業革命に匹敵するようなインパクトを与えるでしょう。

 ただし、ビットコインやいわゆる仮想通貨がその主役になる可能性はあまり無いと思います。


(大原浩)




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(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。)


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